東京地方裁判所 平成7年(ワ)22916号 判決 1998年9月18日
東京都品川区東大井一丁目九番三七号
原告
株式会社加藤製作所
右代表者代表取締役
加藤正雄
右訴訟代理人弁護士
野上邦五郎
同
杉本進介
同
冨永博之
右補佐人弁理士
御園生芳行
兵庫県神戸市中央区脇浜町一丁目三番一八号
被告
株式会社神戸製鋼所
右代表者代表取締役
亀高素吉
右訴訟代理人弁護士
本間崇
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告に対し、金一三億一八三九万円及びこれに対する平成七年一二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告が、被告によるラフテレーンクレーンの製造販売が原告の有していた特許権の侵害に当たるとして、被告に対して損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 原告の特許権
(一) 原告は、その存続期間満了まで、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有していた。
発明の名称 トラッククレーンにおけるアウトリガ
出願日 昭和五二年九月七日
公告日 平成二年三月二七日
登録日 平成四年五月二九日
登録番号 第一六六五九三七号
特許請求の範囲 別紙「特許出願公告公報」写しの該当欄記載のとおり
(以下、右出願公告公報掲載の明細書についての手続補正事項を掲載した別紙「特許法第六四条の規定による補正の掲載」による補正後の明細書を、「本件明細書」という。)
(二) なお、本件特許権は、昭和五二年(一九七七年)九月七日の特許出願(以下「原々出願」という。)を特許法四四条一項の規定により分割して出願された特許出願(以下「原出願」という。)を再度右規定により分割して出願されたものである。
2 本件発明の構成
A 車体フレーム下側の横方向に設けた二重樋状案内部材の両案内路の互いに対向する一端部上側位に、
B 端縁が当該車体巾一杯に延びる筒状アームを配し、
C 該筒状アームの基部を前記車体フレームの側壁部に固着すると共に、
D 前記筒状アームの底板下面が、前記両案内路に伸縮可能に挿入され、断面が長方形状をなす水平ビーム頂壁の受面として構成され、
E かつ、前記筒状アームの底板端部に、前記水平ビーム端部に突設された伸縮支脚上部の遊嵌可能な外開き切欠を形成すると共に、
F 該外開き切欠まわりの側板下部に、前記水平ビーム頂壁の受面を有する補強片を一体状に設けたこと
G を特徴とするトラッククレーンにおけるアウトリガ。
3 本件発明の作用効果
本件発明の作用及び効果は、以下のとおりである。
(一) 作用
車体フレームの下部横方向に設けた二重樋状案内部材の案内路に挿入した水平ビームを、互いに反対方向に伸長させた後、水平ビーム端部の伸縮支脚を伸長させ、車体を地上に支承してクレーンによる荷役作業をし、また、伸縮支脚を収縮させた後、水平ビームを収縮させる等、従来のトラッククレーンにおけるアウトリガと同様な作用をする外、水平ビームの伸縮時に、水平ビームの端部に設けた伸縮支脚が、車体フレームの側壁部に溶着され、車体巾一杯に延びる筒状アームの底板端部に形成された外開き切欠内に嵌入して車巾内に格納され、しかも、筒状アームの底板端部の外開き切欠まわりの側板下部に、一体状に設けられた前記水平ビーム頂壁の案内面付補強片により、筒状アーム端部の曲げ剛性が確保され、水平ビーム伸長時の負荷による筒状アーム端部の下向極圧が、車巾一杯に延びる側板下部の補強片により支承される。
(二) 効果
(1) 底板端部に外開き切欠を有し、端部が車巾一杯に延びる筒状アームの基部を車体フレーム側部に設けたから、端部に伸縮支脚付き水平ビームを車巾内に格納できる。
(2) 筒状アーム端部の側板下部に、水平ビーム頂部の受面付補強片を一体状に設けたから、筒状アームの底板端部に外開き切欠を設けたにもかかわらず、筒状アーム端部の充分な曲げ剛性を確保できる。
(3) アウトリガの最小縮小巾の増大を招くことなく、筒状アーム端部の曲げ剛性を確保できるから、水平ビームの伸長時における伸縮支脚の最大スパンを従来例より増大でき、トラッククレーンの限界転倒モーメントを増大し、安全荷役作業領域が増大する。
(4) また、筒状アームを水平ビームの頂壁上側に位置させると共に、その底板端部に外開き切欠を設け、かつ、同底板又はその側板下部を水平ビーム頂部の受面ないしガイドとする外は、筒状アームの外形を、水平ビームの断面形状の制約を受けることなく構成できるから、その設計自由度が向上する。
4 被告の行為
被告は、平成二年四月から平成三年一一月まで、別紙物件目録一記載のラフテレーンクレーン(以下「イ号物件」という。)を製造販売した。また、被告は、平成三年一二月から、別紙物件目録二記載のラフテレーンクレーン(以下「ロ号物件」という。)を製造販売している(以下、イ号物件及びロ号物件を併せて「被告製品」ともいう。)。
二 争点
1 被告製品の構成Aと本件発明の構成Aについて
(原告の主張)
被告製品の構成Aにおける「二重筒状部材」は、以下の理由から、本件発明の構成Aにおける「二重樋状案内部材」に当たる。
(一) 被告製品の「二重筒状部材」はその一部に本件発明の「樋状」の構成を有している。
被告製品のアウトリガは、二重筒状部材が単独に存在しているわけではなく、その上に、底板を有しない外側構造体と基部側構造体が一体に溶接固着されて、一つの構造物を形成する。したがって、この一体構造体は、二重筒状部材と底板のない外側構造体と基部側構造体が合体したものとみることができると同時に、二重筒状部材の水平板(ロ号物件では厚板水平板及び水平板。以下同じ。)と外側構造体、基部側構造体を一体のものと考え、それらのものと水平板の下にある二重樋状案内部材が合体したものとみることもできる。
特に被告製品のアウトリカは、水平板の上に外側構造体と基部側構造体が一体に固着されて水平ビームからの極圧Rを車巾端部で支えており、外側構造体と基部側構造体がなければ極圧Rを車巾端部で支えることができないから、水平板と外側構造体、基部側構造体とが合体して一つの物を構成し、その下に樋状の案内部材が一体に溶接固着されているとみるべきである。そうすると、被告製品のアウトリガの前記一体構造体の中には、二重樋状案内部材の構成が存在すると考えられる。
本件発明で、水平ビームの案内部材を樋状構造としたのは、案内部材が少なくとも水平ビームを案内する機能を有していればよいからである。そして、被告製品の二重筒状案内部材も樋状の構成を有しているからこそ水平ビームを案内する機能を有している。
また、本件発明の水平ビームの案内部材が樋状なのは、その上の筒状アームに水平ビームからの極圧Rを直接伝えて支えるためであるが、被告製品のアウトリガも極圧Rを水平板を通して外側構造体に直接伝えており、外側構造体がなければ、車巾端部に外開き切欠のある水平板で極圧Rを支えることはできない。その意味でも、被告製品のアウトリガは、水平ビームからの極圧を水平ビームの案内部材の直上にある外側構造体と水平板で支えているから、「樋状」の構成を有していると考えられる。
(二) 本件発明の「二重樋状案内部材」は「頂部が開放する長方形状」のものである。
本件特許権の無効審判請求事件(審判請求人株式会社タダノ、被請求人原告、以下「無効審判」という。)で、原告が「二重樋状案内部材」について「頂部の開放する長方形状」という説明をしたのは、「二重樋状案内部材」自体の構成を説明しているだけであって、その上に蓋がされているか否か、また、その蓋が樋状部材に固定されているか否かは問題ではない。
本件発明の実施例の案内部材は、「頂部が開放されている」といっても、その上には外開き切欠を有する筒状アームの底板によって蓋がされており、この底板と二重樋状案内部材との上下方向の間隔が変わらないものである。これを本件発明の「樋状」というのであるから、「樋状の案内部材」とその上にある「外開き切欠きを有する筒状アームの底板」とが一体に固着されて、「筒状アームの底板」によって案内部材に蓋がされている被告製品のアウトリガも、本件発明の「樋状」の構成を有するものと考えられる。
被告製品の「二重筒状部材」は、外開き切欠を有する水平板の下に「樋状」の構造があり、その樋状の案内部材を、水平板と外側構造体及び基部側構造体とで蓋をした状態であり、それによって水平ビームの頂壁からの極圧Rを支える。したがって、被告製品の「二重筒状部材」とその上の水平板、外側構造体、基部側構造体とは一体のものとして機能しているから、それらを一つの物と考えて、その下に本件発明の案内部材の「樋状」の構造物があると考えてよい。
(三) 極圧Rの伝達について
本件発明の「二重樋状案内部材」が「樋状」の構成を有しているからといって水平ビームの極圧Rがこの「二重樋状案内部材」に一切伝えられないわけではなく、本件発明のものと被告製品のものとは違いはない。
水平ビームからの極圧Rが二重樋状案内部材に伝えられないというのは本件発明の実施例でのことであり、本件発明自体の作用効果ではない。水平ビームの案内部材の上に蓋がされ、それと樋状案内部材が連結されていれば、極圧Rは樋状の案内部材に伝えられる。
本件発明の実施例のものでも、筒状アームが二重樋状案内部材の上にあり蓋をしている状態になっていて、かすがい状支持部材が筒状アームと二重樋状案内部材を結びつけているので、車巾端部に水平ビームからの極圧Rがかかると筒状アームが上方へ押し上げられて、筒状アームの基部側にあるかすがい状支持部材の支持部も押し上げられて、かすがい状支持部材によって二重樋状案内部材も上に押し上げられることになる。ただ、本件発明の実施例では、かすがい状支持部材の底部に水平ビームからの極圧Qが働くため、かすがい状支持部材に伝えられる極圧Rの一部は極圧Qと相殺されてその差分だけが二重樋状案内部材に伝えられる。そのため、本件発明の実施例のものでは、二重樋状案内部材に伝えられる極圧Rは小さいものになってしまう。実施例の場合であっても、厳密には、二重樋状案内部材には、極圧Rが一切伝えられないのではなく、かすがい状支持部材を通じて伝えられる極圧Rの一部から極圧Qを差し引いた分だけの力は働いている。実施例のもので二重樋状案内部材に極圧Rがほとんどかからないのは、極圧Rの一部が極圧Qと相殺されるからであり、水平ビームの案内部材が樋状をなしているからではない。
なお、従来のアウトリガの水平基筒は、これのみで水平ビームからの極圧Rをすべて受けて支えていたのであり、そのために、車巾端部に外開き切欠等を設けることができなかったのに対し、被告製品のアウトリガでは、二重筒状部材の上に外側構造体を設けて水平ビームからの極圧Rを支えているので、車巾端部に外開き切欠を設けていても、そこで水平ビームからの極圧Rを支えることができる。よって車巾端部に外開き切欠もなく水平基筒だけで極圧Rを支えている従来例のアウトリガと被告製品とは全く違ったものである。
(四) 本件特許公告公報の記載について
本件公報の10欄6行~13行には、「なお、本件発明者の調査によれば、このアウトリガの使用時に、二重樋状案内部材23の中央隔壁板23bに発生する応力は極めてちいさいから、この二重樋状案内部材23にはアウトリガの使用時における強度保持機能を持たせる必要はなく、単に水平ビーム3の案内機能や水平ビーム3伸縮時における支持部材18の揺れ止め機能等を持たせるだけの軽量に構成でき、」との記載がある。そして、これに続いて、「この実施例のものでは、」との記載がある。
しかし、「この実施例のものでは」の断り書きがなされているからといって、右部分より後の記載のみが実施例に関する説明であって、〃右部分より前の記載は「二重樋状案内部材」についての一般的な記載であるということではない。
右個所はそれ自体が本件公報の7欄5行~10欄30行の本件発明の実施例が記載されている個所の一部であり、それは7欄6行~8行にその旨の記載があることからも明らかである。そして、本件公報9欄26行の記載から明らかなように、本件公報9欄27行~10欄30行には実施例の作用が説明されていることからも、「この実施例のものでは」の前の記載も実施例の作用についての記載としか考えられない。
(五) 無効審判答弁書における記載
無効審判で原告の提出した答弁書(平成六年一〇月一一日付)の6頁15行から7頁下から5行までの記載は、本件発明の「二重樋状案内部材」が案内機能を奏すれば足りるということである。つまり、原告が右部分で述べているのは本件発明の「二重樋状案内部材」が水平ビームの案内機能を奏するものであるということであり、その例として実施例の記載をあげているものである。
(六) 無効審判の再答弁書の記載
無効審判における平成七年四月六日付けの原告の再答弁書2頁18行~3頁4行には、「なお、弁駁書による請求人の求釈明は…本件発明の解決課題は…水平ビームからの極圧Rを従来のアウトリガの水平基筒に代わる二重樋状案内部材を介することなく、基部を車体フレームに固定した筒状アームの車体巾一杯に延びる底板端部の外開き切欠まわりの補強片で受承し、同筒状アームを介して車体フレームへ伝達することにより、二重樋状案内部材の肉厚を増すことなく、換言すればアウトリガの重量増を招くことなく、しかも、アウトリガを車体フレームから取り外すことなく水平ビームを車体巾一杯に伸長させてアウトリガの安定性向上を図る一方、伸縮ビームを車体巾内に収縮可能にする点にあり、係る課題を特許請求の範囲の構成、さらに同特許請求の範囲に記載した構成の筒状アームの選択により解決したものであり、…」と記載されている。
しかし原告がここで述べようとしたのは、水平ビームの頂壁からの極圧Rを外開き切欠を有する筒状アームの底板端部で直接受けるもので、この水平ビームの頂壁と、外開き切欠を有する筒状アームの底板の間に案内部材が介在しないという当然のことにすぎない。それは、右再答弁書で原告が「水平ビームからの極圧Rを従来のアウトリガの水平基筒に代わる二重樋状案内部材を介することなく、基部を車体フレームに固定した筒状アームの車体幅一杯に延びる底板端部の外開き切欠まわりの補強片で受承し、」といっていることからもわかることである。
再答弁書の「同筒状アームを介して車体フレームへ伝達することにより二重樋状案内部材の肉厚を増すことなく」の記載は、従来例のアウトリガが水平基筒だけで極圧Rを支えていたのに対し、本件発明が筒状アームで極圧を支えていることから、その分、二重樋状案内部材の肉厚を従来の水平基筒の肉厚より薄くすることができるということを述べているにすぎないのであって、筒状アーム以外の部材に極圧Rが一切伝達されない趣旨ではない。
(被告の主張)
被告製品の「二重筒状部材」は、以下の理由から、本件発明の「二重樋状案内部材」には当たらない。
(一) 原告の主張中、被告製品のアウトリガが、「二重筒状部材と底板のない外側構造体と基部側構造体が合体したものとみることができる」点は認めるが、「同時に、二重筒状部材の水平板と外側構造体、基部側構造体を一体のものと考え、それらのものと水平板の下にある二重樋状案部材が合体したものとみることもできる」との点は否認する。
イ号物件の目録(一)の第6図、第7図、第9図、第9-H図、第10図及びロ号物件の目録(二)の第9図、第9-H図、第10図等から明らかなように、被告製品における水平板(イ号物件の3aとロ号物件の3a(2))は、側板3cと一枚板であって、左右の両側板と底板3bから成る樋状のものに、後から天板を載せた構造とみることはできず、製作工程から見ても、元々筒状の物としてできている。したがって、水平板をその上の外側構造体、本部側構造体と一体のものと考え、水平板の下に樋状の案内部材があると考える見方は誤りである。
本件発明で、水平ビームの案内部材を樋状構造としたのは、案内部材が「少なくとも水平ビームを案内する機能を有していればよいからである。」との点は否認する。水平ビームからの極圧Rをその上の筒状アームに直接伝えるための必須の構成だからである。
被告製品のアウトリガも、水平ビームの極圧Rを水平板を通して外側構造体に直接伝えている点で、本件発明の水平ビームの案内部材が樋状をなし、その上の筒状アームに水平ビームからの極圧Rを直接伝えるようにするのと同じである旨の原告の主張は否認する。被告製品における水平板は、水平ビームからの極圧Rを水平板と一体である二重筒状部材の側板に伝えることが応力分布図から判明しているが、本件発明製品では、樋状案内部材には極圧Rの応力は分布しない(乙第二四号証)。
本件公報の記載(9欄11~16行、10欄6~18行)、無効審判における答弁書の記載(8頁)及び審決書の記載から、二重樋状案内部材は「頂部の開放する」文字どおり樋状の案内部材であるのに対し、被告製品の二重筒状部材は、「頂部の開放されていない」文字どおり筒状の部材である。しかも、被告製品で発生する極圧Rは二重筒状部材全体に伝達されるようになっているため同部材の板厚も増大する結果となっているから、本件特許の樋状案内部材のように肉薄で軽重量のもので単に水平ビームの引込み、張り出し時における支持部材の振れ止めと摺動案内と水平ビームの振れ止めをする、強度保持機能を必要としないものとは、質的に異なる。
二重樋状案内部材の樋状部は、極圧Rを筒状アームに直接支承させるためと、水平ビームの伸縮案内機能を果たすための必要且つ十分な構成であるのに対し、被告製品のものは右案内機能のほか、水平ビーム頂壁の極圧Rを受けてそれを車体フレームに伝えるという重大な機能を営むためのものであって、単に水平ビーム案内のために、樋状の上に水平板が付加されているようなものではない。
そもそも全体の形状を無視して部材の一部のみを取り出して、両者の形状異同を対比することはおかしい。あくまでも、形状全体を見て比較すべきであってそうすると、「二重筒状部材」は文字どおり「筒状」を呈しているのであり、「樋状」の構成を有していることにはならない。
被告製品における厚板水平板及び水平板は、「二重筒状部材」の天板を構成(その構造並びに製作工程からも明らか)するものであり、同「二重筒状部材」の構成要素として、極圧Rや極圧Qの荷重の支承、伝達に重要な役割を担っている。本件発明の「二重樋状案内部材」は、単に水平ビームを案内するものだけの機能があれば足りるというのではなく、水平ビーム頂壁からの極圧Rをその上の筒状アーム(具体的には筒状アーム底板端部の外開き切り欠き回りの補強片)に直接支承させる機能が必須である。換言すれば、「二重樋状案内部材」は、同極圧Rによって作用する実質的にすべての荷重を直接に筒状アームに伝えることを妨げてはならない、すなわち同荷重を支持してはならない役割が課せられているのであって、それが故に、水平ビーム頂壁と筒状アームとの間にその一部が介在してはならず、つまりその間に天板が存在してはならず、したがって同部材は天板を有さず、「頂部の開放する」形状すなわち「樋状」を呈することが必要とされているのである。
本件公報の二重樋状案内部材に関する記載は、実施例に限定されるものではなく本件発明自体の構成の意義を明確にしたものと解すべきである。
(二) 本件発明の「二重樋状案内部材」が「頂部が開放する長方形状」のものである点について
原告は、無効審判で「二重樋状案内部材」につき「頂部が開放されている」と説明したが、「蓋がなされているものを積極的に排除する旨の記載はない」という。
しかし、無効審判の答弁書(6~7頁)で原告自らが二重樋状案内部材の構成の持つ作用・効果が「この記載からも本件と特許発明における『二重樋状案内部材』自体には、それが軽量化されることの外は、水平ビームの案内機能という通常の二重樋状案内部材とほぼ同様な案内機能を奏すれば足り、それ以外の格別の作用、効果を奏する旨の記載ないし示唆のないことからも裏付けられている。」と本件公報の記載(10欄6~18行)を根拠として述べている。原告自身が「頂部が開放していなければならないもの」であることを認めながら、一方で頂部が閉鎖されていることも許容する「少なくとも二重樋状をなしていればよい」とするのは、無効審判における原告自身の主張を全く翻すものであり、自己矛盾も甚だしい。
無効審判の答弁書(6~7頁)で原告自らが二重樋状案内部材の構成の持つ作用・効果が「強度保持機能を持たせる必要はなく単に水平ビーム案内機能等を持たせるだけの軽量に構成できる」(6頁15~26行)点であることを、本件公報の記載(10欄6~18行)を根拠として述べているいる点について、原告は、案内機能を奏するものであることを強調しただけであるとするが、二重樋状案内部材が案内機能をもつことは当然のことで、それだけでは従来の水平基筒と何ら差違がなく、答弁の意味が余りないこととなる。この答弁はその表現から直ちに理解できるとおり、水平ビーム案内機能を持たせるだけの構成で、“強度保持機能を排除した構成”となっていることを強調しているのに他ならない。
また、これが実施例固有の作用・効果で、本件発明のものではないとするのはあまりにも非常識な主張である。同答弁は、無効審判請求人が本件発明における「二重樋状案内部材」の目的、構成、効果について、実施例にはある程度詳細に記載されているが、本発明自体については明細書のどこにも記載がないから、特許法第三六条第四項又は第五項違反として無効理由を主張した(平成六年六月九日付け審判請求書5頁3行~同11頁3行)のに対して、原告から出された反論である。そもそも、「二重樋状案内部材」の記載不備を指摘され、本発明の前記実施例の記載から本発明自体の作用・効果も明らかと断言しておきながら、特許取得後の侵害論の場では、単に実施例の記載であるとして権利範囲の拡大解釈を主張することは、正に禁反言の法理に著しく違背するものである。
同答弁書6頁下から2行~7頁8行には、「もっとも、この記載は同明細書の第6欄二六~二七行における作用の説明の外は、本件発明の実施例に関する記載であって、本件発明の一つの構成要件としての『二重樋状案内部材』についての直接的な説明箇所は比較的少ないものといえるとしても、同二重樋状部材の奏する水平ビーム案内機能自体は通常の二重樋状案内部材の機能と変りなく、また、この実施例が本件発明の対象となることは論ずるまでもなく、この記載からも本件発明における「二重樋状案内部材」自体には、それが軽量化されることの外は、水平ビームの案内機能という通常の二重樋状案内部材とほぼ同様な案内機能を奏すれば足り、それ以上の格別の作用、効果を奏する旨の記載ないし示唆のないことからも裏付けられている。」と記載されているが、右記載は、正に「二重樋状案内部材」が「軽量化」される作用・効果が実施例固有のものでなく本発明自体によるものであり、これはとりもなおさず「二重樋状案内部材」を「頂部を開放する」構成として水平ビームからもたらされる極圧Rの荷重を直接その上の筒状アームに伝えることにより「二重樋状案内部材」にかかる荷重負荷をなくして、その軽量化を図ることを意味するものである。
(三) 極圧Rの伝達について
原告は、水平ビームからの極圧が、二重樋状案内部材に伝えられないというのはあくまでも実施例の記載であると主張するが、本件公報の記載(9欄11~16行、10欄6~18行)、無効審判時の答弁書の記載(8頁)及び審決書の記載から、本件発明の二重樋状案内部材は、「頂部の開放する」という、文字どおりの意義を有することは疑う余地がない。
また、原告は、実施例のものでも、極圧Rの一部から極圧Qを差し引いた分だけは二重樋状案内部材に働くとしているが、こうしたことは明細書のどこにも記載がないし、もし実際に働いているとしても無視し得る範囲と認められる。なぜなら、無視できない大きな極圧Rが働くとすれば、「頂部の開放する」樋状の案内部材を用いて極圧R対策を施す意味がなくなり、従来の水平基筒タイプとの区別がつかなくなるからである。
原告は、水平ビームの案内部材の上に蓋がされていて、その蓋と樋状案内部材が連結されていれば、極圧Rは樋状の案内部材に伝えられるはずであると述べ、本件発明の実施例のものでも筒状アームが二重樋状案内部材の上にあってこれに蓋をしている状態になっていて、かすがい状支持部材がこの筒状アームと二重樋状案内部材を結びつけているので、車幅端部に水平ビームからの極圧Rがかかると、かすがい状支持部材を経て二重樋状案内部材も上へ押し上げられるという。
しかし、原告の右の説明は正確でない。本件発明の実施例では、二重樋状案内部材は、筒状アームに上部をピン止めされたかすがい状支持部材によって底から抱かれるようにして吊り下げられているのである。したがって、極圧Rが水平ビームから筒状アームにかかっても、二重樋状案内部材は、ピンで筒状アームにぶら下がっているので、左右方向の力は、ピンで逃げてしまい、二重樋状案内部材自身には横方向の力は働かない。さらに、上下方向についても、筒状アームに極圧Rが付与されると、二重樋状案内部材は、同アームが上反りした分だけ単に全体が上方に持上げられるに過ぎず、同案内部材自身に応力は発生しない。結局二重樋状案内部材には極圧Rに伴う応力は一切作用しないことになるのである。
本発明製品(実施例)と被告製品で実際に働く応力分布については、乙第二四号証として提出したシュミレーション結果が示すように、本発明製品の場合は極圧Rに基づく応力が全くといってよいほど働いていないが、被告製品の場合はかなりの応力が発生している事実が判明する。原告はかかる応力分布等のデータを出さずに実施例でも極圧Rが二重樋状案内部材に働くとしているが、右は前提を欠く主張である。
(四) 従来のアウトリガの構成について
原告も認めているように、従来のアウトリガの水平基筒は、水平基筒だけで水平ビームからの極圧Rを一旦すべて受けて支えていた。したがって、水平ビームからの極圧Rを水平基筒の天井板で一旦受けてこれを水平基筒の両側板へ伝達するため、頑強な重量感のある水平基筒を用いる必要があった。しかし、このタイプばかりでなく、原々出願以前から、乙第三三号証~乙第四〇号証の示すように、水平基筒の上に車幅端部まで延びている筒状アームがあり、車幅端部で筒状アームに外開き切欠が設けられており、したがって、水平基筒の天井部分にも必然的に外開き切欠が設けられて、水平ビームの先端にある伸縮支脚を車幅内に納まるようにした被告製品と同一の構成を備えたものも存在した。このタイプのものと従来のアウトリガとに共通することは、水平ビームから伝えられる極圧Rを、一旦水平基筒の頂部に当たる天井板、又はそこに設けられた外開き切欠まわりの天板で受けて、その一部を水平基筒の側板に伝達するという点である(乙第二四号証の応力分布図参照)。
これに対して、本件発明は、水平ビームからの極圧Rを筒状アームに直接伝え、二重樋状案内部材は、そのために頂部を開放した樋状とし、強度保持機能を持たせず、単に水平ビームの伸縮を案内させるだけの機能を持たせ、しかも、筒状アームから、そこにピン止めされたかすがい状支持部材で二重樋状案内部材の底から抱き上げるようにしてぶら下げたから、前述のように極圧Rは二重樋状案内部材には全く伝わらないのである。
(五) 本件特許公告公報の記載について
本件公報の10欄13行~14行の「この実施例のものでは………」の断り書きがある点については、右記載より前の部分は、実施例固有の記載ではなく、本件発明における「二重樋状案内部材」に関する一般的な記載と読むべきである。
この部分の記載が、単純に実施例固有の記載とするならば、従来例との比較を意図したにしても、その直後の記載として敢えて「この実施例のものでは……」と断り書きをするのはいかにも不自然であり、10欄6~20行の全体の文章の流れとして辻褄が合わず、本来このような断り書きは一切不要のはずである。
しかも、この10欄6~20行の一文は「なお、本発明者の調査によれば、……」のようになお書きで始まり、それまでの実施例の作用の説明の流れを一時的に中断した表現が用いられている。しかも、「この実施例」と呼ばず、突如として「このアウトリガの」使用時に……というように、本件発明のアウトリガ全体を示す呼称が使われている。
したがって、この文の前段(19欄6~13行)は、単に実施例固有のものに限定された記載ではなく、本件発明の構成そのものを特に意識した記載であり、「この実施例のものでは……」と断り書きから始まるこの文の後段(10欄13~20行)の記載は、再び立ち帰った実施例そのものの記載と理解すべきであろう。
2 被告製品の構成B1、B2と本件発明の構成Bについて
(原告の主張)
被告製品の構成構成B1、B2における「外側構造体」、「基部側構造体」及び「水平板」は、本件発明の構成Bにおける筒状アームに当たる。
被告製品の構成B1、B2は、外側構造体と基部側構造体が水平板の上にあって、外側構造体は水平板と溶接固着され、基部側構造体は車体フレームの側壁部と、水平板は車体フレームの下面とそれぞれ溶接固着されており、外側構造体、基部側構造体、水平板は一体となって一体構造体を構成している。そして右一体構造体のうちその外側にある外側構造体の端部は、車巾端部の水平板の直上にあり、また基部側にある基部側構造体は車体フレームの側壁部に溶接固着されているので、これら外側構造体と基部側構造体は水平板と車体フレームの間に溶接固定されていて、これによって水平ビームの頂壁からの極圧Rを外側構造体の下にある水平板の端部外開き切欠で支えるようにしているのである。つまり、右の一体構造体は全体として一体的に結合されて、水平ビームの頂壁の極圧を受けて、支えているのであるから、この一体構造体が全体として本件発明の筒状アームとして働いていることは明らかである。被告製品の水平板、外側構造体、基部側構造体は、一体になって車体フレームに溶接固着されていることから、これらが一体として本件発明の「筒状アーム」に該当する。
本件発明の筒状アームは「<1>水平ビームの頂壁の上側に位置させるとともに、<2>その底板端部に外開き切欠を設け、かつ<3>同底板またはその側板下部を水平ビーム頂壁の受面ないしガイドとする外は、筒状アームの外形を水平ビームの断面形状の制約を受けることなく構成できるから、その設計自由度が向上する。」(本件公報11欄23行~12欄5行)というものであるところ、被告製品におけるアウトリガの右一体構造体も、<1>水平ビームの頂壁の上側に位置させるとともに、<2>その水平板端部に外開き切欠を設け、かつ<3>水平板を水平ビームの頂壁の受面ないしガイドとしている。ただ、右の一体構造体は、その基部側にある基部側構造体の側板下部が欠けている点で、本件発明の実施例の筒状アームとその外形を異にするが、本件発明の筒状アームの外形は、右<1>~<3>以外に制約を受けないから、被告製品の一体構造体が一体となって、水平ビームの頂壁からの極圧を受けて、この極圧を支えるようにするものである以上、そのようなものも本件発明の筒状アームということができる。
本件発明の筒状アームは、底板の端部にも大きなU字状の外開き切欠が設けられており、本件発明の「筒状アーム」というものには「筒状部分」の一部が欠けているようなものも含まれるのであるから、被告製品の外側構造体の頂板の先端に外開き切欠が設けられていても、そのことによって本件発明の筒状の構成を有しないとはいえない。
被告製品の水平板は、水平ビームの頂壁からの極圧Rを外側構造体、基部側構造体とともに支えるものであり、仮に、水平ビームの案内部材として二重筒状部材のみからなり、外側構造体及び基部側構造体が欠落すれば、端部の外開き切欠まわりの頂板により極圧Rを支えることができないことからも理解されるように、これらは一体となって極圧Rを支えるという効果を奏するものであることを考えれば、水平板は外側構造体や基部側構造体と一体のものと考えてよく、その底板を構成しているといえる。
なお、本件発明の実施例では、筒状アームの底板端部の外開き切欠まわりの側板下部に設けられた補強片が、水平ビーム頂壁から受ける極圧Rを、基部を車体フレームの側板に固定した筒状アームにより、その上側から突っ張るように支えることにより、その底板端部に水平ビーム端部の伸縮支脚を収容する外開き切欠を設けたにもかかわらず、当該外開き切欠まわりの筒状アームの曲げ剛性を確保できるものであるところ、被告製品の水平板端部の外開き切欠まわり上に、外側構造体の側板下部が溶接されることにより、その水平板端部の外開き切欠まわりの外側への湾曲が防止されているのであって、この構成で両者は明らかに一致するものというべきである。のみならず、本件発明の実施例では、筒状アームの剛性確保のために、当該筒状アームの底板端部の外開き切欠より基部側に、その底板、左右の側板及び頂板を隔壁により一体に溶接したものであるところ、被告製品の一体構造体にあっては、その水平板の外開き切欠の基部側に、その水平板、その両側板及び頂板を隔壁に一体状に溶接することにより、その剛性を確保したものと見られるから、被告製品はこの点でも本件発明の実施例と一致するものということができる。
(被告の主張)
被告製品の構成構成B1、B2における「外側構造体」、「基部側構造体」及び「水平板」は、本件発明の構成Bにおける筒状アームには当たらない。
被告製品の外側構造体は、外側端縁から車体フレームの側壁部までの長さの約半分であり、その上板にはU字状の外開き切欠があって、約七分の一程度天井部分が残っているだけである。被告製品の基部側構造体は、倒状コ字状であって、それ自体に底板がないから筒状とはいえない。
本件特許における筒状アームは、極圧Rという強大な荷重を二重樋状案内部材を介することなく水平ビームから直接伝達された筒状アームを支承する必要があるため、曲げ剛性・強度の高い構造物でなければならず、単なるアームでない「筒状」のものであることが必要である。
外側構造体は、車体フレームに溶接固着されておらず、ロ号物件における厚板水平板も車体フレームに溶接固着されていない。直接溶接されていない部分についてまで、間接的に溶接固着されているというのであれば、アウトリガは、二重筒状部材の側板3c、3c、底板3b、底板補強部材10も襟状補強部材12も、車体フレームに一体となって溶接固着されていることになるのである。全体として一体となっているものの一部分のみを任意に摘出して、一体となっているものとみなすことは不合理である。
被告製品における極圧Rは、一方では水平板、側板、側板補強部材、底板、補強部材のついた底板等の二重筒状部材全体の各部分や襟状補強部材を経て、水平板の上面と溶接固着されている車体フレームの下面へ伝達されると共に、他方では、二重筒状部材の水平板を介して襟状補強部材、外側構造体の側板、補強側板、上板等を経て基部側構造体へ伝わり、さらに車体フレームに伝わる。
本件発明の「筒状アーム」が底板の端部に外開き切欠が設けられているものを含むからといって、それ以外の「筒状部分」の一部に欠けた部分があっても良いというのは明らかにおかしい。本件特許請求の範囲では、「筒状アーム」の底板端部に外開き切欠きを形成すると表現されていることからも分かるとおり、切欠きを例外的に形成したのが本件発明である。切欠きがあるものも「筒状」であるとすればこれにさらに切欠きを形成する意味はない。
被告製品の水平板は「二重筒状部材」の構成要素で、水平ビームからの極圧Rを受けるのは、被告製品の場合は「一体構造体」だけでなく「二重筒状部材」の全体であり、伝達の仕方も本件発明とは大いに異なっている。
仮に原告のいう「一体構造体」が「筒状アーム」に該当するとした場合であっても、その全体の長さにおける「筒状」の部分の割合は、「基部側構造体」の側板の下半分及び底板の全部が欠落しているために「外側構造体」で見たときよりも更に小さくなり、一四分の一程度となってしまい、これにいかなる理由をつけても「筒状」ということはできない。
本件明細書で筒状アームの外形を水平ビームの断面形状の制約を受けることなく構成できるとしている意味は、「筒状アーム」の「筒状」という外形を含めて制約がないというのではなく、あくまでも従来タイプにおける水平ビームの断面形状からくる特定の制約を指していっているもので、本件特許が必須の要件とする「筒状」という外形まで含めた広範な意味ではない。
明細書の記載にある「筒状アームを水平ビーム頂壁上側に位置させるとともに、その底板端部に外開き切欠を設け、かつ同底板又はその側板下部を水平ビーム頂部の受面ないしガイドとする外は筒状アームの外形を水平ビームの断面形状の制約を受けることなく構成できる」という本件発明の作用・効果は当然ながら被告製品にはない。
3 被告製品の構成A及びBと本件発明の構成A及びBについて
(原告の主張)
仮に、二の1、2の主張が認められないとしても、被告製品の構成A、Bにおける「外側構造体と基部側構造体」と「二重筒状部材」を一体にしたものは、以下の理由から、本件発明の構成A、Bにおける「筒状アーム」と「二重樋状案内部材」に当たる。
(一) 次のとおり、本件発明の目的、構成、作用、効果、「筒状アーム」及び「樋状案内部材」が設けられた理由等から考えると、本件発明の筒状アームと樋状案内部材を一体にしたものも、本件発明に含まれると考えられる。
一方、被告製品の「外側構造体、基部側構造体」と「二重筒状部材」とは上下に一体に溶接固着されており、しかも「外側構造体と基部側構造体」の下に底板がないので、「外側構造体と基部側構造体」と「二重筒状部材」を上下に一体に固着させると、二重筒状部材の上にある水平板は外側構造体と基部側構造体の底板ともなっている。よって「外側構造体と基部側構造体」と「二重筒状部材」を一体にしたものは、本件発明の「筒状アーム」と「二重樋状案内部材」を上下一体に固着したものと同一の構造となっている。
(二) 本件発明の目的は、「水平ビームを収納するときは、水平ビームを車巾内に収納できるようにして、水平ビームを延ばすときは、できるだけ遠くに延ばすことができるようにする」というものであるが、本件発明の筒状アームと樋状案内部材とを一体にしたものも、水平ビームを収納するときは、車巾内に水平ビームを収納でき、水平ビームを延ばすときも、充分遠くまで延ばすことができるものである。つまり筒状アームと樋状案内部材を一体にしたものも、別体にしたものと同じく本件発明の目的を達することができる。
本件発明の構成では「筒状アーム」は「樋状案内部材」の「上側位に配」するものであって、しかも「筒状アームの底板下面が水平ビーム頂壁受面として構成され」ているものであり、特に「筒状アーム」と「樋状案内部材」とを別体にしなければならないという限定はされていない。しかも「樋状案内部材」の上に「筒状アーム」があり、「筒状アームの底板下面が水平ビーム頂壁の受面となっている」というのであるから、筒状アームと水平ビームの(樋状)案内部材が一体となっているものを特に排除している趣旨とは考えられない。
本件発明の作用、効果は、「水平ビームを車巾内に収納できるとともに、筒状アームの底板端部に外開き切欠を設けたにもかかわらず、筒状アームの端部の充分な曲げ剛性を確保できる」というものであるが、筒状アームと樋状案内部材とを一体にしたものも別体のものと同じく、水平ビームを車巾内に収納できるとともに、筒状アームの端部に充分な曲げ剛性を確保できるという効果を有している。
「筒状アーム」はその底板端部に外開き切欠を有するとともに側板下部に補強片を設けて底板端部で充分な曲げ剛性を確保しているというものであるが、このような「筒状アーム」がその下の樋状案内部材と一体となったとしても、右のような筒状アームの特徴が失われるわけではないのであって、別体となっているものと何ら差異はない。
「樋状案内部材」は水平ビームを案内する部材であるが、それが樋状であるのは、水平ビーム頂壁からの極圧Rを案内部材の上にある筒状アームの底板に直接伝えるためであるが、樋状案内部材がその上の筒状アームと一体のものとなったとしても、水平ビームからの極圧Rはその上の筒状アームの底板に直接伝えられるのであり、一体に形成されたからといって、樋状案内部材の役割を果たさなくなるわけではない。また、「樋状案内部材」の上に「筒状アーム」が一体に固着されているものも、その中に樋状の構成を有しているといってよいのであり、樋状だからといって、その上に蓋がされるものを一切排除するものではない。
以上のように、本件発明の「筒状アーム」と「樋状案内部材」を一体としたものものも、本件発明の目的、作用、効果はすべて有しており、別体のものと変わるところはなく、しかも「筒状アーム」も「樋状案内部材」もその機能を果たしているのであるから、「筒状アーム」と「樋状案内部材」とを一体にしたものも本件発明のものに含まれると考えてよい。
(三) 被告の主張は、次のとおり、いずれも理由がない。
(1) 被告は、「樋状案内部材」の「樋状」という構成から考えて、その上に蓋がされたようなものは「樋状」といえないので、筒状アームと樋状案内部材とが一体となっているものは本件発明に含まれない旨主張する。
しかし、本件発明で案内部材を「樋」にしたのは水平ビームからの極圧Rを案内部材で遮ることなく直接に筒状アームの底板に伝えるためであり、その点では筒状アームと樋状案内部材が一体になった場合もその特徴には変わりはない。筒状アームと樋状案内部材が別体のものでも、樋状案内部材は筒状アームで蓋がされた状態になっているのであるから、樋状案内部材に蓋がされているからという理由で筒状アームと樋状案内部材が別体でなければならないということにはならない。
本件発明における樋状案内部材は、その上に筒状アームが常に存在して、それがなければ極圧Rをささえることができず、アウトリガとして成り立たないものであり、樋状案内部材は常に筒状アームで蓋がされた状態ではずれないようになっているから、この樋状案内部材の上に筒状アームで一体に蓋がされたとしても、そのために樋状案内部材の構成を有していないとはいえない。
(2) 被告は、本件発明の樋状案内部材は「頂部が開放されている」ものであるとして、樋状案内部材の上に筒状アームが一体になって蓋をしているものは樋状案内部材とはいえず、したがって、筒状アームと樋状案内部材を一体にしたものは、本件発明のものに含まれない旨主張する。
しかし、本件発明では樋状案内部材の頂部が開放されているといっても、両者が別体のものでも樋状案内部材の上に常に筒状アームがあり、筒状アームで蓋がされた状態になっているので、筒状アームと樋状案内部材を一体となっているものも別体となっているものも、頂部が蓋がされていることに関しては違いはない。
本件発明の「樋状案内部材」の「頂部が開放されている」というのは、水平ビームからの極圧Rが案内部材で遮られることなく直接に筒状アームに伝えられるためであり、その役割は筒状アームと樋状案内部材が一体になっているものでも何ら変わるところがない。
つまり樋状案内部材の頂部が開放されているからといって、それを理由に筒状アームと樋状案内部材が一体のものは本件発明の樋状案内部材といえないというわけではない。
(3) 被告は、本件発明の樋状案内部材は樋状という以上、この案内部材には極圧Rがかからないものであり、筒状アームと樋状案内部材を一体にしたものは、樋状案内部材に極圧Rがかかるので本件発明のものといえない旨主張する。
しかし、「樋状」案内部材に極圧Rが(ほとんど)かからないというのは、本件発明の実施例のように筒状アームと樋状案内部材が別体のものから構成されていて、これらをかすがい状支持部材で支持しているものでのことである。筒状アームと樋状案内部材が一体となっている場合には樋状案内部材に極圧Rが伝わることは被告が被告製品で主張しているとおりである。
つまり被告が「樋状」だから案内部材に極圧Rがかからないというのは、少なくとも筒状アームと樋状案内部材が別体であるものを前提にした議論である。「樋状案内部材」に極圧Rが伝わらないのは、筒状アームと樋状案内部材が別体のものでであり、これらが一体のものにおける特徴ではない。そのような筒状アームと樋状案内部材が一体でない場合の特徴を筒状アームと樋状案内部材が一体のものも含むかどうかを論じているときの判断の基準とすることは相当でない。
(4) 被告は、本件発明のものは、樋状案内部材の肉厚が厚くならず軽量のものとなっていることを理由として、筒状アームと樋状案内部材が一体のものではない旨主張する。
しかし、本件発明のものは、従来技術の水平基筒のように水平ビームの案内部材だけで極圧Rを支えるものでなく、その上の筒状アームで極圧Rを支えるものであるから、水平基筒のように肉厚の部材を用いる必要がなかったというだけであり、その点は「筒状アーム」と「樋状案内部材」が一体をなしているものでも変わりはない。したがって本件発明のものが肉厚が厚くないとか軽量のものとなっているとしても、それによって、「筒状アーム」と「樋状案内部材」を一体にするものが本件発明から除かれることは考えがたい。
(5) 被告は、本件発明の二重樋状案内部材には極圧Rがかからないからこの案内部材は水平ビームの案内機能のみを有し、強度保持機能がないものであるのに対し、筒状アームと樋状案内部材が一体のものには樋状案内部材に極圧Rがかかり、この案内部材は強度保持機能を有するから筒状アームと樋状案内部材を一体にしたものは本件発明ではない旨主張する。
しかし、そもそも樋状案内部材に極圧Rがかからないというのは、前述のとおり、少なくとも筒状アームと樋状案内部材が別体であることを前提にしたものであり、筒状アームと樋状案内部材が一体のものについては成り立たない。樋状案内部材に極圧Rがかからず、したがってこの案内部材が、強度保持機能を有しないということをもって筒状アームと樋状案内部材が一体になっているものは、その性質を有しないから、本件発明に含まれないとすることは、最初から筒状アームと樋状案内部材が別体のものを前提にしてその特徴をあげて、その特徴がないから本件発明ではないといっていることになり、不当である。
本件発明は水平ビームの上に車巾端まで延びる補強片を有する筒状アームを設けることにより車巾端部に外開き切欠を有しているのにかかわらず、車巾端部で極圧Rが支えられるように、筒状アームの端部で充分な曲げ剛性を保持するというものであり、樋状案内部材は強度保持機能を有しないものに限定されるわけではない。したがって本件発明を強度保持機能を有しないものに限定して筒状アームと樋状案内部材が一体になっているものはその機能を有するから本件発明でないというのは誤りである。
(6) 被告は、原告が、無効審判における答弁書で、「極圧Rを…………二重樋状案内部材を介することなく…………筒状アームの車体一杯に延びる底板端部の外開き切欠まわりの補強片で受承し、同筒状アームを介して車体フレームへ伝達することにより、二重樋状案内部材の肉厚を増すことなく」と述べた点を根拠にして、無効審判において本件発明は二重樋状案内部材には極圧Rがかからないものであると述べた以上、本件訴訟で二重樋状案内材に極圧Rが伝わるものも含むという主張はできない旨主張する。
しかし、原告が無効審判で述べたのは、本件発明のものは水平ビームの案内部材が樋状であるので、極圧Rは案内部材に遮られることなく、直接筒状アームの底板に伝えられて、車巾端部で支えられるということである。そして筒状アームと二重樋状案内部材が一体となったものでも、水平ビームからの極圧Rは水平ビームの案内部材で遮られることなく筒状アームの底板に直接伝えられて、筒状アームで支えられるのであり、原告の無効審判における主張は、原告の本件訴訟の主張と何ら矛盾するものではない。
そして筒状アームと樋状案内部材が一体になっているものも「極圧Rは二重樋状案内部材を介することなく直接筒状アームに受承されて、筒状アームを介して車体フレームに伝達される」という特徴を有しているのであり、したがって筒状アームと樋状案内部材が一体となっているものも本件特許の無効審判手続における原告の主張と矛盾するところはない。
(被告の主張)
被告製品の構成A、Bにおける「外側構造体と基部側構造体」と「二重筒状部材」を一体にしたものは、以下の理由から、本件発明の構成A、Bにおける「筒状アーム」と「二重樋状案内部材」に当たらない。
(一) 本件発明の目的、構成、作用、効果について
原告は、本件発明は「水平ビームを収納するときは水平ビームを車巾内に納められるようにするとともに、水平ビームを延ばすときは、水平ビームをできるだけ遠くまで延ばすことができるようにすること」を目的とした発明であるというが、その明細書の記載内容の一部が記載されているだけで、軽量化を図る点等が記載されておらず、明細書の正確な記載内容に基づいた主張でない。
構成、作用、効果の記載についても、明細書の記載内容の一部を取り出して論じているに過ぎず、本件発明の権利範囲を拡大解釈するための不当な主張である。
(二) 「筒状アーム」と「樋状案内部材」との関係について
原告は、本件発明の明細書には、「筒状アーム」と「樋状案内部材」とを別体にすると限定されていない旨主張している。
しかし、本件発明では少なくとも極圧R対策は、原々出願から一貫して述べられている発明思想の中核となるものであり、水平ビームからの極圧Rを樋状案内部材を介さず筒状アームに直接伝え、樋状案内部材の軽量化を図るという解決原理を採用したものであり、しかもその明細書並びに図面には唯一の実施例しか記載されておらず、素直に本件発明の構成を解釈すれば、「筒状アーム」と「樋状案内部材」とは別体であるとするのが妥当である。
また、原告は、本件発明の作用、効果は、筒状アームと樋状案内部材とを一体にしたものも別体のものと同じく差異は生じない旨と主張するが、これは本件発明の一部の作用、効果に関するもので、一体にしたものと別体のものとは極圧Rの伝達の仕方は前記のとおり全く異なる。
(三) 「二重樋状案内部材」の解釈について
原告は、「二重樋状案内部材」と「蓋」の有無について、原告は、本件発明では樋状案内部材はその上に常に筒状アームがあり、筒状アームで蓋がされた状態になっているので、筒状アームと樋状案内部材が一体となっているものも別体となっているものも、頂部が蓋がされていることに関しては違いはないのである旨主張する。
しかし、「二重樋状案内部材」の解釈で重要なことは、「二重樋状案内部材」それ事態の形態として「蓋」があるか否かであり、「二重樋状案内部材」の頂部が他の部材によって「蓋」をされるか否かではない。極圧Rの樋状案内部材への影響を考えると明らかなように、少なくとも被告製品の「二重筒状部材」は単に「蓋」があるから本件発明の「二重樋状案内部材」と異なっているといっているのではなく、被告製品の「二重筒状部材」は「蓋」が一体的に形成されて全体として強固な閉断面筒状体となっている点で、本件発明の頂部が開放された「二重樋状案内部材」とは根本的に異なる。
(四) 「樋状案内部材」に極圧Rが作用するか否かについて
原告は、「樋状」案内部材に極圧Rが、ほとんど、かからないというのは、本件発明の実施例のように筒状アームと樋状案内部材が別体のものから構成されていて、これらをかすがい状支持部材で支持しているものにおいてであり、筒状アームと樋状案内部材が一体となっている場合には樋状案内部材に極圧Rが伝わることは当然である旨主張する。
しかし、原々出願においては、応力零と記載されていたのが、本件発明では、発生する応力は極めて小さいと変更されてはいるものの、原々出願から、一貫して筒状アームと樋状案内部材が別体である唯一の実施例しか記載されていないことに照らすならば、極圧Rは、基本的に、樋状案内部材には作用しないものと理解すべきである。
4 被告製品の構成Eと本件発明の構成Fについて
(原告の主張)
被告製品の構成Eは本件発明の構成Fに当たる。
被告製品の構成Eは、「外開き切欠8bのまわりにある水平板3a(ロ号物件では厚板水平板3a(1))と、側板4c(2)と補強小板11を溶接固着した厚肉の補強側板4c(3)と、補強側板4c(3)の内側の下部の肉盛溶接部が一体的に溶接固着されている」という構成を有しているが、これらのうち少なくとも前記一体構造体の両側部の下部に位置している「水平板3a(ロ号物件では厚板水平板3a(1))、側板4c(3)下部、補強小板を溶接固着した厚肉の補強側板4c(3)下部(補強側板が肉厚であることは、物件目録添付第6図より明らかなことであり、補強小板が補強側板の内側にあって補強側板を補強していることは右第6図、及び補強小板の文言自体より明らかなことである。)、補強側板4c(3)の内側下部の肉盛溶接部」は、外開き切欠8bのまわりにあって、一体となって水平ビームの頂壁の受面である水平板(ロ号物件では厚板水平板)の下面に働く極圧Rを分散させて、それを支えるようになっているので、これらを一体として水平ビームの頂壁の受面を有する補強片ということができる。
本件発明の明細書及び図面の第5図からも明らかなように、本件発明の補強片は、筒状アームの側板や底板の一部をなしているものであることから考えると、被告製品における水平板や外側構造体の側板下部の一体の補強構造体を本件発明の補強片といってよい。
被告製品の「水平板(ロ号物件の厚板水平板)」は、その上の「外側構造体」と一体に溶接固着されており、外側構造体と基部側構造体を「水平板」と「車体フレーム」との間に設けることにより極圧Rを外開き切欠を有する「水平板」の車巾端部で支えることができるようになっているのであり、本件明細書・添付図面における補強片14、15の中に水平板の部分も含まれているのであることを考え合わせると、被告製品の水平板(ロ号物件では厚板水平板)は「補強片」の一部をなしていると考えられる。
被告製品は、水平板で極圧Rを支えられるようにするために水平板と外側構造体が一体となって水平板自体を支えているのであり、これらが一体となって水平板自体を支えるために外側構造体の両側下部にある各部材が全体として補強部を構成しているのであって、水平板も極圧Rを支えるためにわざわざ厚板にしている。そして、本件発明の補強片は、特にその形状が特定されているわけではなく、本件特許明細書添付図面から考えて筒状アームの底板や側板を兼ねていてもよいものであることを考え合わせると、本件発明の筒状アームに相当する被告製品の外側構造体の両側下部にある底板や側板等の各部材を本件発明の補強片といい得る。
(被告の主張)
被告製品の構成Eは本件発明の構成Fに当たらない。
被告製品における「水平板3a(ロ号物件では厚板水平板3a(1))、側板4c(3)下部、補強小板を溶接固着した厚肉の補強側板4c(3)下部、補強側板4c(3)の内側下部の肉盛り溶接部」(以下、この項で、この部分を「補強部」という。)は、本件発明の構成Fにおける「補強片」に当たらない。
本件発明の構成Fは、「外開き切欠まわりの側板下部に前記水平ビームの頂壁の受面を有する補強片を一体状に設けた」というものである。原告は、被告製品におけるこの要件中の「側板」に該当する箇所は、「一体構造体の両側部」(側板4c(2)を指す。)であると正しく指摘しながら、この「一体構造体」の両側部の下部に位置している「水平板3a、補強側板4c(3)の内側下部の肉盛溶接部」は、それを支えるようになっているので、これらを一体として補強片ということができる旨主張する。しかし、「水平板3a、補強側板4c(3)の内側下部の肉盛溶接部」各部を仮に一体としてみたところで、この「一体構造体」がその両側部である側板4c(2)の「下部」に「設け」られているということは物件目録(一)、(二)の第6図でみる限り到底できない。
仮に、被告製品の補強部が、本件発明の補強片と同じ作用をしているとしても、被告製品の構成が本件発明の構成を有していることにならない。「補強部」は外開き切欠回りの側板に一体状に設けられたとみれば、「補強片」とは到底いい難いし、まして右に述べたように側板下部に位置しているとはいえないからである。原告は、側板、補強側板のそれぞれの「下部」のみを取り出して、水平板、補強側板の肉盛溶接部と共に無理に一体のものとし、その「両側部」を本件特許発明Eの構成中の「側板」と観念しつつ、側板「下部」に位置するという要件を具備させるに当って、今度は「側板」を、被告製品の「側板」、「補強側板」の各「上部」のみとすりかえているに過ぎない。
原告の主張によれば、「側板下部」なるものがどの部分を指すのか不明である。その理由は、被告製品の「側板」は一枚ものであってその厚みや幅、材質も一様に構成されているから、その全体が「側板」であり、その側板「本体」と側板の「それ以外の部分」を区別して分割しようがなく、ましてや「本体」とその補強部分となる「下部」とに分けることは不可能だからである。「補強側板」についても「側板」で述べたと同様な理由により、その「本体」とその「下部」とを区別し得えないことは明らかであり、しかも、この補強側板は全体が「側板」の補強機能を有しているものであるから、その「下部」のみが補強の意味を持っているものとすることも不合理である。
5 被告製品の構成Gと本件発明の構成Gについて
(原告の主張)
被告製品の構成Gにおける「ラフテレーンクレーン」は、本件発明の構成Gにおける「トラッククレーン」に当たる。
(一) 運転台の数について
トラッククレーンという名称は、運転台が二つあるものに限定されるわけではなく、むしろより広く移動手段をもったクレーン車をいうのであり、特に本件発明におけるトラッククレーンは本件発明の目的から考えて道路上を走行するクレーン車と考えるべきである。本件発明は、トラッククレーンが道路上を走行する場合に、水平ビームを車巾内に収納できるようにすると共に、工事現場でクレーンを使う場合には水平ビームを長く伸長できるようにしたものである。このことを考えると、本件発明のトラッククレーンは、道路を走行すると共に、工事現場でクレーン操作が要求されるものであり、運転台が一つであるか二つであるのかによってトラッククレーンであるかどうかが決まるものではない。
そして、被告製品のラフテレーンクレーンも、道路上を走行するものであり道路上を走行する際には、アウトリガの水平ビームを車巾内に収納できるようにし、工事現場では安定したクレーンとして使えるようにできるだけ水平ビームを長く伸長できるようにしているものであり、その点では、本件発明と全く同じ目的、構成、効果を有するものである。したがって、被告製品のラフテレーンクレーンにおけるアウトリガは本件発明のトラッククレーンのアウトリガに相当する。
(二) 審査経過について
本件特許の出願当初の明細書には「トラッククレーン等」と記載されていたが、その後、手続補正書により「トラッククレーン」と補正された。しかし、それによって「トラッククレーン」の中に「ラフテレーンクレーン」を含まないというものではない。
本件特許の出願当初の明細書には「トラッククレーン等」の例として「特に数十トンの荷を吊り上げ得る大型のトラッククレーンや穴掘具支持ブーム搭載自動車等」が例示されているのである。すなわち「トラッククレーン」としては「特に数十トンの荷を吊り上げ得る大型のトラッククレーン」が例示されており、「トラッククレーン以外のもの」としては、「穴掘具支持ブーム搭載自動車等」が例示されている。
このことから考えると、本件発明で「トラッククレーン」というのは、「重い荷物をクレーンで吊り上げる自動車」をいい、「トラッククレーン以外のもの」とは「穴掘具支持ブーム等クレーン以外のものを搭載している自動車」と考えるべきである。したがって、右補正により、「トラッククレーン」の中に「穴掘具支持ブーム搭載自動車等」は含まれなくなるということはできるかもしれないが、トラッククレーンと同じく重い荷を吊り上げるラフテレーンクレーンをトラッククレーンから除く理由にはならない。
(三) JIS規格について
JIS規格は「自走クレーン」というクレーンを有するものについて、それらを細分化した分類のものであり、「トラッククレーン」と「ホイールクレーン」を分けたのは、運転やクレーンの操作の違いを明らかにするためである。したがって、これらは運転席がいくつあるかで分けている。
しかし、本件発明は出願当初の明細書にもあるように、「トラッククレーン」というのは「穴掘具支持ブーム搭載自動車」等と対比するものとして考えられているものであり、クレーンを有する車輌である「自走クレーン」を細分化したうちの一分類として考えられているものではない。しかも本件発明はアウトリガに関するものであり、本件発明のアウトリガで、その車輌の運転席が一個であるか二個であるかは全く問題とならない。
したがって、JIS規格を持ち出して、「ラフテレーンクレーン」は「ホイールクレーン」に属するものであり、「ホイールクレーン」は「トラッククレーン」と異なるものであるとする反論は失当である。
(被告の主張)
被告製品の構成Gにおける「ラフテレーンクレーン」は、本件発明の構成Gにおける「トラッククレーン」に当たらない。
(一) 被告製品は「ラフテレーンクレーン」に関するが、本件発明は「トラッククレーン」に関するもので、両者はその対象クレーンにおいて明確に相違する。本件発明における「トラッククレーン」は、原告が主張するような広く移動手段をもったクレーン車あるいは、道路上を走行するものというような広義に解釈されるものでなく、文字どおり「トラッククレーン」そのものとして 限定解釈すべきものである。
(二) 本件明細書には、本件発明にいう「トラッククレーン」という文言が原告の主張するような広い意味、概念として定義されることを明確にした記載はどこにもなく、ましてや被告製品の「ラフテレーンクレーン」がこの文言の中に含まれることに具体的に言及した記載も見当たらない。
(三) しかも、「トラッククレーン」という文言は、本件発明の出願当初の明細書から一貫して同じ表現が用いられているが、その基礎となる原出願及び原々出願では当初「トラッククレーン等」という表現がされ、その後の審査の過程でいずれも現在の文言に書き改められた経緯が存在する。
すなわち、原々出願の出願時(昭和五二年九月七日出願)の明細書では、その発明の名称及び特許請求の範囲の末尾は「トラッククレーン等」アウトリガと記載されていた。そして、その発明の詳細な説明の冒頭では「本発明はトラッククレーン等のアウトリガ、特に数十トンの荷を吊り上げ得る大型トラッククレーンや穴堀具支持ブーム搭載自動車等の車体を地面に安定支持させるアウトリガに関する。」と説明されていた。
原出願の出願時(昭和五五年五月一日出願)の明細書でも、原々出願と同様に「クレーン等」のアウトリガという記載がされていた。
(四) ところが、この原々出願及び原出願は共に特許庁より昭和五八年九月六日に明細書が不備であるとして特許法三六条四項及び五項の規定に基づく拒絶理由通知を受け、出願人はこれに応答した昭和五八年一〇月一七日付の手続補正書により、原々出願及び原出願の明細書における「トラッククレーン等」という文言をすべて「トラッククレーン」と修正した。また、原々出願の発明の詳細な説明の冒頭の表現は「本発明トラッククレーンの車体を地面に安定支持させるアウトリガ、特に数十トンの荷を吊上げうる大型トラッククレーンに適したアウトリガに関する。」と補正され、原出願の同冒頭表現も同様に「本発明はトラッククレーンの車体を地面に安定支持させるためのアウトリガに関する。」として補正された。
こうした原々出願及び原出願の出願経過を経て本件発明では出願当初よりこの点に関する明細書の記載は「トラッククレーン等」ではなく単に「トラッククレーン」という文言が採用されているのである。
(五) このように、本件発明の基礎となる原々出願及び原出願の出願経過を参酌すれば、出願人が拒絶理由を解消すべく出願当初の明細書の記載である「トラッククレーン等」からその例示的な意味を表わす「等」を削除し、同時に産業上の利用分野に相当する発明の詳細な説明の冒頭で、当初記載された「や穴堀具支持ブーム搭載自動車等の車体を地面に安定支持させる」を削除した事実が明らかである。
つまり、出願人は右のとおり、車体を安定支持させるアウトリガを備えたものであるとした出願当初の発明をこの削除による補正手続きにより断念し、発明の対象を「トラッククレーン」のみに限定して、権利とした。
したがって、右経過から、本件発明における「トラッククレーン」は原告が主張するようなトラッククレーン以外のものを含めて広義に解すべき余地はなく、文字どおり本件技術分野及び業界で認識されている「トラッククレーン」に特定して解釈されなければならない。
(六) 原告は、本件発明で「トラッククレーン」というのは、「重い荷物をクレーンで吊り上げる自動車」をいい、「トラッククレーン以外のもの」とは「穴堀具支持ブーム等クレーン以外のものを搭載している自動車」と考えるべきである旨主張する。
しかし、原出願当初の明細書で大型のトラッククレーンが例示されているのは、トラッククレーンの中で特に大型のものが本件発明の適用対象として適していることを示したに過ぎず、この記載をもって「トラッククレーン」が「重い荷物をクレーンで吊下げる自動車」をすべて含むとするのは不当である。
原出願当初の明細書に記載された二つの例すなわち「大型のトラッククレーン」と「穴堀具支持ブーム搭載自動車」は、あくまでも「トラッククレーン等」に含まれる適切な適用対象を開示したものであり、前者の例は「トラッククレーンに該当するもの」、また後者の例は「トラッククレーン以外のものに該当するもの」を例示していると解するのが合理的である。
しかも、本件明細書では、前記出願当初のものを補正によって修正した後の「大型トラッククレーン」の例示についても本件出願時で削除され、これに該当する産業上の利用分野の項では単に「この発明はトラッククレーンにおけるアウトリガに関する」と再修正されている。右事実からみても、原出願当初の明細書に例示された「大型トラッククレーン」と「穴堀具支持ブーム搭載自動車」を対比させて本件発明における「トラッククレーン」に「トラッククレーン以外のもの」を含めようとするのは全く根拠がない。
(七) 「トラッククレーン」なる用語が「ホイールクレーン」と区別される明確な概念を持った学術用語として認められており、また、本件発明における「トラッククレーン」がかかる学術用語とは特に異なった概念であることについて本件明細書の中で明確な定義がされていない以上、原告の主張を容認すれば、当業者が本件明細書の記載をもってトラッククレーン以外のクレーンをも想定してこれを実施することは、およそ困難といわざるを得ず、特許法三六条四項に違背することになり、本件発明は無効理由を含むことになる。
(八) JIS規格によれば、JIS D 6304に「自走クレーン用語」に関する規格があり、「トラッククレーン」と「ホイールクレーン」の基本的な違いが明瞭に理解される。そして、右定義から明らかなとおり、「ラフテレーンクレーン」は「ホイールクレーン」に属するものであるから、かかる違いは「トラッククレーン」と「ラフテレーンクレーン」との関係でも共通していえることである。
JIS規格のJIS D 6301の「自走クレーンの構造性能基準」に関する規格でも、本規格と同じ分類、定義が説明されている。
このように、「トラッククレーン」は走行操作とクレーン操作を独立した別の運転席に移動して行わなければならないが、「ラフテレーンクレーン」は一つの運転席で走行並びにクレーン操作を連続更には同時に行うことができるものであって、両者は自走クレーンの性能で大きな差があり、原告のいうように運転席が一つか二つかという外観上の単純な違いにとどまるものではない。
これらの分類、定義についてはJIS規格以外の文献、例えば、自動車工学便覧、日本建設機械要覧等でも公表されている。
「トラッククレーン」と「ホイールクレーン」すなわち「ラフテレーンクレーン」とは、基本的にこのような相違点がある。
6 本件請求が権利の濫用に当たるか否か。
(被告の主張)
本件特許権は、次のとおり無効事由を含むものであるから、これに基づく本件請求は権利の濫用に当たる。
(一) 本件発明の分割の違法について
(1) 第一回目の分割の違法
原々出願の出願当初の明細書の「特許請求の範囲」に記載されている発明の中には、「かすがい状支持部材」を有するものしか示されていない。原告もこれを自認している。原々出願の特許請求の範囲は、極圧Rを支承する構成と、「かすがい状支持部材」による極圧Qを支承する構成とが交互に入り組んで記載されており、この記載全体の中から極圧Rを支承する構成に関する部分のみを一個の発明と見て、他の部分と切離して独立扱いすることは不可能だからである。
また、原々出願の出願当初の明細書中「特許請求の範囲」以外で、極圧Rを支承する構成に触れた箇所についても、極圧Qを支承する構成である「かすがい状支持部材」に関する記載が交互に入り組んで記載されている箇所、及びその前後で記載されている箇所であって、「特許請求の範囲」とほとんど変わらない。
このような原々出願の出願当初の明細書中の各記載箇所における、極圧Rを支承する構成に関する箇所だけを、独立した一個の発明の記載とみて分割出願の対象とすることは許されない。極圧Qを支承する方法については、「かすがい状支持部材」を用いる構成のみしか開示されておらず、それ以外の極圧Q対策の実施例が皆無であり、また、極圧R対策のみを課題とした旨の記載が全くないにもかかわらず、極圧Qを支承する構成についての記載を、あたかも独立した別の発明が当初から含まれていたかの如く、極圧R支承の構成についての記載から、切り離して分割することは許されない。
特許法四四条の定める分割の要件は、分割する前の出願明細書に「二以上の発明」が「包含されている」ことである。原々出願の出願当初の明細書には、「二以上の発明」は包含されていない。
このように、本件発明の構成は、原々出願の出願当初の明細書に独立した発明として包含されていないので、第一回目の分割は違法である。したがって、仮に右のような本件発明の構成が原出願の公告公報明細書(第二回目の分割は、原出願の公告の後である。)に包含されていたとしても、出願日は、原々出願の出願日までは遡及せず、第一回目の分割の日である昭和五五年五月一四日まで遡及するにすぎない。そうとすれば、原々出願の公開公報が出願前の公知文献となって本件発明は全部公知となり、無効事由を含むことになる。
(2) 第二回目の分割の違法について
原出願では、審判の拒絶理由通知に応答して、アウトリガ張出時の水平ビームとアームとの間に生ずる極圧の伝達が主としてその側板どうしの間で行われる、という要件の代わりに、アウトリガ張出時の水平ビーム尾端を支持するかすがい状支持部材を設けることを要件として挿入することにより、原々、原の両出願でいずれもかすがい状支持部材を明示している実施例との間の統一を図ったのである。またこの補正と同時に本件出願を分割出願したのである。
原告がA~Gに分説しているような本件発明の構成は、原出願の公告公報明細書には包含されていない。少なくとも、かすがい状支持部材を必須の要件として設けて、アウトリガ張出時の水平ビーム尾端を支持して、極圧Qを二重樋状部材に伝えることなく、直接、筒状アームに伝達するという構成以外の発明は、原出願の公告公報には当業者がこれを正確に理解し且つ容易に実施できる程度に記載されてはいない。
このように、第二回目の分割も違法である。したがって、本件発明の出願日は、第二回目の分割日である昭和六三年九月九日まで遡及するとみるべきことになり、その結果、原告の主張に従いイ号物件及びロ号物件が本件発明の技術的範囲に属すると仮定すれば、被告はイ号物件を右出願日以前から日本国内で製造販売する準備をしており、少なくともロ号物件については既に製造販売を開始していたから、本件発明につき先使用権に基づく通常実施権を有することとなる。
(二) 本件発明の課題について
(1) 本件発明は、極圧R対策を解決課題とし、かつ課題達成の手段として従来の水平基筒の頂部を開放した二重樋状案内部材を用い、水平ビーム頂壁からの極圧Rを水平基筒を介することなく、直接その上の筒状アームの底部に伝達させる方式を採用している以上、極圧Qの対策は必須の課題となる。
すなわち、「頂部を開放した」樋状案内部材を用いる限り、「かすがい状支持部材」に相当する手段がなければ筒状アームによる極圧Rの直接支持に伴って必然的に発生・作用する極圧Qを支持することは不可能であるから、極圧Rを筒状アームで支持できず、結局極圧R対策という解決課題を達成することができない。換言すれば、原告の主張するように、本件発明を極圧R対策のみを課題とする発明ととらえると、本件発明は産業上の利用ができないアウトリガを提供する結果となる。
このように、本件発明は、水平基筒を用いて極圧R対策としてその極圧が発生する部分を肉厚にしたりバンドで補強する従来技術と異なり、「頂部を開放した」二重樋状案内部材をその必須の構成としているが故に、極圧R対策と極圧Q対策とは、一体不可分の解決課題とせざるを得ない。
(2) そして、本願明細書及び原々出願の出願当初の明細書や原出願の公告時の明細書には、極圧Q対策の手段としては、唯一、「かすがい状支持部材」しか記載されておらず、しかも「頂部を開放した」二重樋状案内部材による極圧R対策を必須にしているために、極圧Q対策の手段として「かすがい状支持部材」以外のどのような支持手段でもよいというわけにはいかない。
したがって、本件発明では極圧R対策の課題達成に伴って不可避的に発生する極圧Q対策の手段を特許請求の範囲に特定しない限り、発明の課題解決は不可能となり、発明として未完成なものとなる。
(三) 刊行物公知について
仮に、原告の主張するとおり、本件発明は極圧Rを支承することのみを解決すべき課題としており、車巾最外側に伸縮支脚が収納できる外開き切欠を設ける点、及び車巾最外側で極圧Rを支える点のみを必須の構成としていると仮定すれば、かかる構成のトラッククレーンのアウトリガは、本件特許出願日以前から外国で領布された刊行物(乙一九、二〇、三三~四〇)に記載されて全部公知となっていた。
(原告の主張)
本件特許権は、次のとおり、無効事由を含むものではない。本件特許権に基く請求は権利の濫用に当たらない。
(一) 分割出願について
原々出願、原出願の出願当初の明細書には極圧Rを支承する手段と極圧Qを支承する手段が記載されているから、そのうち前者を本件発明として分割出願することは何ら違法ではない。
アウトリガは、いろいろの構成から成り立っているのであり、その中の一部の構成についての技術も、発明としての技術思想となり得るものである。アウトリガがいろいろの構成から成り立っている以上、それらの構成の記載が交互に入り組んでいることは当然あり得ることであり、それらの構成の中の一つの構成についての技術が発明として認められるものであれば、それを分割し得ないはずはない。
本件発明は、一つの発明の一部を取り出したものではなく、複数の手段を組み合せた発明(極圧Rを支承する手段と極圧Qを支承する手段を組み合せた発明)と一つの手段だけの発明(極圧Rを支承する手段の発明)の両発明が共に原々出願の出願当初の明細書中に記載されているのであるから、そのうちの一つを分割出願したものであり、その分割出願した発明が他の発明より大きいかどうかは問題ではない。
(二) 本件発明の課題について
極圧Rと極圧Qが一体として生じるからといって、そのうちの一方についての極圧を支承する手段についてだけ改良する技術思想も十分考えられるのであり、その場合には、それだけを独立の発明としてとらえることができるはずであって、そのような発明を分割出願しても何ら違法ではない。
(三) 刊行物公知について
被告は、本件発明が極圧Rを支承することのみを解決課題とするのであれば、乙一九、二〇、三三~四〇に記載されているものであると主張する。
しかし、乙一九、二〇に記載されているものは、車巾端部まで筒状アームに相当する部材が延びているものではなく、また、補強部材も有していない。
乙三三~四〇に記載されているものは、筒状アームが車幅端部まで延びておらず、また、筒状アームの側板下部に補強片を有しているものでもない。また、乙三三~四〇のアウトリガの案内部材は二重の構造になっていない。そのため、水平ビームは車両巾の半分の長さのものが車両両側から挿入された状態になっているのであり、水平ビームの延ばされる長さも極めて短いものである。
このように、これらに記載されているものは、本件発明や被告製品が有する構成を有していない。
7 損害の額
(原告の主張)
被告は、次のとおりイ号物件及びロ号物件を製造販売した。アウトリガの寄与率(利用率)は三分の一、実施料率は四%が相当である。よって、原告は、少なくとも、本件特許権の実施料相当額である一三億一八三九万円の損害を蒙ったものである。
(一) 被告は、平成二年四月から平成三年一一月まで、トラッククレーン「RK二五〇-Ⅱ」(イ号物件)を合計七八〇台製造販売し、その売上合計額は、三〇一億〇八〇〇万円であるから、実施料相当額は、四億〇一四四万円となる。
(二) 被告は平成三年一二月から平成七年八月まで、トラッククレーン「RK二五〇-三(PANTHER二五〇)」(ロ号物件)を合計七一〇台製造販売し、その売上合計額は、三一二億四〇〇〇万円であるから、実施料相当額は、四億一六五三万円となる。
(三) 被告は平成四年一月から平成七年八月まで、トラッククレーン「RK三五〇(PANTHER三五〇)」(ロ号物件)を合計一四〇台製造販売し、その売上合計額は、七七億円であるから、実施料相当額は、一億〇二六六万円となる。
(四) 被告は平成二年四月から平成三年一一月まで、トラッククレーン「RK四五〇」(イ号物件)を合計一八〇台製造販売し、その売上合計額は、一二二億四〇〇〇万円であるから、実施料相当額は、一億六三二〇万円となる。
(五) 被告は、平成三年一二月から平成七年八月まで、トラッククレーン「RK四五〇-二(PANTHER五〇〇)」(ロ号物件)を合計二四〇台製造販売し、その売上合計額は、一七五億九二〇〇万円であるから、実施料相当額は、二億三四五六万円となる。
(被告の主張)
争う。
第三 争点に対する判断
一 争点1(被告製品の構成Aと本件発明の構成Aについて)及び争点3(被告製品の構成A及びBと、本件発明の構成A及びBについて)に関して、一括して判断する。
1 本件発明の構成Aは、「車体フレーム下側の横方向に設けた二重樋状案内部材の両案内路の互いに対向する一端部上側位に、」というものである。特許請求の範囲で、これに続く記載は、「端縁が当該車体巾一杯に延びる筒状アームを配し、該筒状アームの基部を前記車体フレームの側壁部に固着すると共に、前記筒状アームの底板下面が、前記両案内路に伸縮可能に挿入され、断面が長方形状をなす水平ビーム頂壁の受面として構成され、」というものである。確かに、特許請求の範囲における記載では、二重樋状案内部材と筒状アームとの結合関係については、必ずしも明らかに記載されていない。
しかし、以下に詳述するとおり、本件明細書の発明の詳細な説明欄の記載、本件特許権の無効審判の過程における原告の主張に照らすならば、本件発明の構成Aは、二重樋状案内部材が筒状アームと一体に結合される結果強度保持機能を有するような構成のものは含まないものと解すべきである。
2 本件明細書の発明の詳細な説明の記載
(一) 「発明が解決しようとする課題」の項には、次の記載がある。
(1) 「従来のトラッククレーン等の特殊車両におけるアウトリガにあっては、水平ビーム30端部の伸縮支脚4に発生する反力Pを水平基筒31、箱状ブラケット32、ブラケット33を介して車体フレーム1側に伝達する構成のものであり、しかも、・・・張出し時における水平ビーム30と水平基筒31間に発生する強大な曲げモーメントに耐え、それを車体フレーム1側に伝達可能にする必要があり、各部、殊に、水平基筒31全体を肉厚にする必要があり、その結果、アウトリガ全体の重量増を招くことになり、これは近時の・・・車軸荷重の制限強化に照らし、好ましくないという問題があった。
もっとも、特殊車両におけるアウトリガを、その水平ビームを伸長させた際、水平ビームの内端部により下方に押圧されて水平基筒の底壁部に発生する極圧を分散させるため、バンド又はコ字状金具等の補強手段を、伸長時の水平ビーム内端の当接する水平基筒底壁の外側に構じた(原文のまま、以下同じ。)ものは、・・・等に一応示されてはいるものの、これらの従来例の何れにも、水平基筒の端部側に補強手段を構ずることについては何等の配慮がなされておらず、まして、この水平基筒の端部に対応する・・・筒状ブラケット32の端部側に発生することになる極圧R対策は構じられていないという問題があった。
すなわち、・・・従来の特殊車両におけるアウトリガにあっては、水平ビーム30を支承する水平基筒31全体の肉厚を増すか、又は、水平ビーム30を伸長させた状態において、その内端の当接部近傍の底板外側部まわりにバンド又はコ字状金具等の補強片を配することにより、水平基筒30の中央部の曲げ剛性等を如何に増加させるかの対策が構じられていたに留まり、・・・」(本件明細書4欄16行~5欄9行)
(2) 「この発明は、このような従来例に鑑み、・・・により、アウトリガを車体フレームから取外すような煩わしさを伴なうことなく、前記のような課題を解決できるトラッククレーンにおけるアウトリガを提供しようとするものである。」(本件明細書5欄34行~6欄2行)
(二) 実施例の項には、次の記載がある。
(1) 「前記水平底板9の基部は車体フレーム1の下面に溶着される。この底板9と協働して水平ビーム3を摺動自在に支持するかすがい状支持部材18の上部開放端が、筒状アーム7基部の側板10、11にピン19により止着される。」(本件明細書8欄3~7行)
(2) 「23は車体フレーム1の両側のかすがい状支持部材18、18に支持された水平ビーム3の、少くと共(原文のまま)、底部を案内する案内路23D、23Dを構成する二重樋状案内部材で、該二重樋状案内部材23により両端のかすがい状支持部材18、18が剛に連結される。」(本件明細書8欄17~22行)
(3) 「なお、本件発明者の調査によれば、このアウトリガの使用時に、二重樋状案内部材23の中央隔壁板23bに発生する応力は極めてちいさいから、この二重樋状案内部材23にはアウトリガの使用時における強度保持機能を持たせる必要はなく、単に水平ビーム3の案内機能や水平ビーム3伸縮時における支持部材18の揺れ止め機能等を持たせるだけの軽量に構成でき、この実施例のものでは、従来例のように、水平ビームに係る荷重を、一旦水平ビームの支持基筒(二重樋状案内部材)により受止めた後、これを更に車体フレームに伝達するものに比し、トラッククレーン等の重量をかなり(5%程度)軽減でき、しかも、伸縮支脚4、5を含めた水平ビーム3、3の長さを、車体横巾一杯にすることができる。」(本件明細書10欄6~20行)
(三) 以上の記載を前提に検討する。
「発明が解決しようとする課題」の項で、従来のアウトリガについて、「張出し時における水平ビーム30と水平基筒31間に発生する強大な曲げモーメントに耐え、それを車体フレーム1側に伝達可能にする必要があり、各部、殊に、水平基筒31全体を肉厚にする必要があり」、「従来の特殊車両におけるアウトリガにあっては、水平ビーム30を支承する水平基筒31全体の肉厚を増すか、又は、水平ビーム30を伸長させた状態において、その内端の当接部近傍の底板外側部まわりにバンド又はコ字状金具等の補強片を配することにより、水平基筒30の中央部の曲げ剛性等を如何に増加させるかの対策が構じられていたに留まり、」等の記載があることに鑑みれば、本件明細書において、解決すべき課題を有する従来技術のアウトリガとしては、水平ビームからの強大な曲げモーメントを、水平基筒の肉厚を増すなどの方法により水平基筒で支承してから、ブラケットを通じて車体フレームに伝達する構造のものが念頭に置かれていたものであることが明らかである。
また、本件明細書の「発明の詳細な説明」欄の実施例における記述では、二重樋状案内部材と筒状アームとの結合関係に関し、明確な説明がされている。右欄によれば、車体フレーム1の下面に基部が溶着された水平底板9とかすがい状支持部材18とが協働して水平ビーム3を摺動自在に支持し、二重樋状案内部材23により両端のかすがい状支持部材が剛に連結されるものであること、二重樋状案内部材23の中央隔壁板23bに発生する応力は極めて小さいから、二重樋状案内部材23にはアウトリガの使用時における強度保持機能を持たせる必要はなく、単に水平ビーム3の案内機能や水平ビーム3伸縮時における支持部材18の揺れ止め機能等を持たせるだけの軽量に構成でき、従来例のように、水平ビームに係る荷重を、一旦水平ビームの支持基筒(二重樋状案内部材)により受け止めた後、これを更に車体フレームに伝達するものに比し、トラッククレーン等の重量をかなり軽減できること等と記載されていることに鑑みれば、右実施例としては、明確に、二重樋状案内部材にはアウトリガ使用時の強度保持機能を持たない、単に水平ビームの案内機能や水平ビーム伸縮時における支持部材の揺れ止め機能等を持たせるだけの軽量な構成が記載されているものである。
以上のとおり、本件明細書における、<1>解決すべき課題を有していた従来技術のアウトリガの構成、及び<2>二重樋状案内部材と筒状アームとの結合関係についての唯一の明確な記載である実施例についての各記載を参酌すれば、本件発明の構成Aは、二重樋状案内部材が筒状アームと一体に結合される結果強度保持機能を有するような構成のものは含まないものと解すべきである。
3 本件特許権の無効審判の過程における原告の主張
(一) 原告は、本件特許権の無効審判事件の再答弁書の中で、被請求人として、「二重樋状案内部材」について次のような主張をしていることが認められる(乙二二)。
<1>「本件特許発明の解決課題は二重樋状案内部材をどのように車体フレームへ装着するべきかにあるのではなく、水平ビームからの極圧Rを従来のアウトリガの水平基筒に代わる二重樋状案内部材を介することなく、基部を車体フレームに固定した筒状アームの車体巾一杯に伸びる底板端部の外開き切欠まわりの補強片で受承し、同筒状アームを介して車体フレームへ伝達することにより、二重樋状案内部材の肉厚を増すことなく、換言すればアウトリガの重量増を招くことなく、しかも、アウトリガを車体フレームから取外すことなく水平ビームを車体巾一杯に伸長させてアウトリガの安定性向上を図る一方、伸縮ビームを車体巾内に伸縮可能にする点にあり、」(2頁20~28行)。
<2>「本件特許発明は二重樋状案内部材をどのように車体フレームへ取付けるべきかを解決課題とするものではなく、水平ビームの頂壁からの極圧Rを二重樋状案内部材を介することなく、基部を車体フレームに固定した筒状アームの車体巾一杯に伸びる底板端部の外開き切欠まわりの補強片で受承し、当該筒状アームを介して車体フレームへ伝達することにより、アウトリガとしての安定性が高く、軽量なものを提供することを解決課題とするものである。」(5頁8~13行)
<3>「本件特許発明の解決課題は二重樋状案内部材を車体フレーム側に如何様に取付けるべきかの点にはなく、通常のアウトリガに発生する極圧P、Q、R中の極圧Rを、第9~12図に示す従来例のアウトリガのように水平基筒を介して車体フレームに伝達させるものとは異り、同極圧Rを従来例の水平基筒に対応する二重樋状案内部材を介することなく、基部を車体フレームの側壁に固定した筒状アーム(特許請求の範囲記載の構成)の車体巾一杯に延びる底板端部の外開き切欠まわりの補強片で受承し、該筒状アームを介して車体フレームに伝達させるようにしたものであって、」(9頁1~8行)
<4>「本件特許発明においてはアウトリガにおける極圧P、Q、Rのうち、極圧Rをその特許請求の範囲に記載した、基部を車体フレームに固定した筒状アームの車体巾一杯に延びる底板端部の外開き切欠まわりの補強片で受承し、該筒状アームを介して車体フレームへ伝達させるようにしたものであり、係る構成の採用により水平ビームの案内部材としての「二重樋状案内部材」が従来の水平ビームの案内部材としての水平基筒とは異り、その頂部が欠落して開放する構成となり、この二重樋状案内部材では(従来例の水平基筒の頂板に当るものがないから)その頂部では前記極圧Q[Rの誤記と認められる。]を受承せず、筒状アームの底板端部の外開き切欠まわりの補強片で受承し、同筒状アームを介して車体フレームへ伝達するもので、その結果アウトリガを従来例より軽量に構成可能にする等の効果を奏させたものである。」(10頁7~17行)
<5>「本件特許発明における二重樋状案内部材は、本願特許出願についての原々及び原特許出願の願書に最初に添付された図面記載の符号23の付された部分であって、それらの願書に最初に添付された明細書中における「案内部材(二重案内樋)」を指すことは明白な事実であり、また、この二重樋状案内部材ないし案内部材(二重案内樋)が、水平ビームの案内機能を奏するものであって、この二重樋状案内部材は従来のアウトリガの水平基筒の頂板対応部を欠除するものであるから、アウトリガにおける極圧P、Q、R中の極圧Rが、この二重樋状案内部材には伝達さ[れ]ず、」(12頁8~15行)
<6>「請求人は、被請求人が二重樋状案内部材と水平基筒(例えば、第11、12図の符号31を付したもの)とを混同しているかのような主張をされるようであるが、本件特許発明の実施例を示す図面と明細書の発明において、二重樋状案内部材(本件特許発明)と水平基筒(従来例のアウトリガ)とを峻別していることは明らかで、また、被請求人は答弁書及び再答弁書においても両者を混同するような主張をしない。」(12頁24行~13頁1行)
<7>「本件特許明細書中における「二重樋状案内部材23は肉薄の断面が長方形状をなす軽重量のものとして構成され」が、「二重樋状案内部材23は肉薄の断面が『頂部の開放する』長方形状をなす軽重量のものとして構成され」の趣旨であることは答弁書において述べた通りであり、厳密にはこの記載に多少明瞭性を欠くきらいのあることは否定できないとしても、本件特許明細書及び添付図面に示す本件特許発明の実施例に関する限り(前記の多少明瞭性を欠くきらいのあることを否めない記載のあることは別として)、頂部の開放しないものが本件特許発明の二重樋状案内部材に当る旨の記載は全くなされておらず、また、そのような誤解を招く恐れのある記載はない」(16頁8~16行)
(二) 以上のとおり、原告は、本件特許権の無効審判の過程で、本件発明は、極圧Rを従来例のアウトリガのように水平基筒を介して車体フレームに伝達させるものとは異なり、二重樋状案内部材は、従来例の水平基筒の頂板対応部を欠如するものであるから、その頂部では極圧Rを受承せず、水平ビーム頂壁からの極圧Rは、二重樋状案内部材を介することなく車体フレームへ伝達されるものであり、本件特許明細書においては、頂部の開放しないものが本件発明の二重樋状案内部材に当る旨の記載は全くなされていない旨を明確に述べている。
このような原告の無効審判における主張は、本件発明の構成Aには、二重樋状案内部材が筒状アームと一体に結合される結果強度保持機能を有するような構成のものが含まれないという前記の解釈を裏付けるものということができる。
4 原告は、被告製品の構成A、Bにおける「外側構造体と基部側構造体」と「二重筒状部材」を一体にしたものは、本件発明の構成A、Bにおける「筒状アーム」と「二重樋状案内部材」に当たると主張するが、右主張は、以下のとおり、理由がない。
(一) 原告は、「樋状の案内部材」とその上にある「外開き切欠きを有する筒状アームの底板」とが「体に固着されて、「筒状アームの底板」によって案内部材に蓋がされている部材も、本件発明の「樋状」の構成を有しているというべきである旨主張する。すなわち、極圧Rの伝達について、本件発明の「二重樋状案内部材」が「樋状」の構成を有しているからといって水平ビームの極圧Rがこの「二重樋状案内部材」に一切伝えられないわけではなく、水平ビームからの極圧Rが二重樋状案内部材に伝えられないというのは本件発明の実施例においてのことであり、本件発明自体の作用効果ではない(現に、本件発明の実施例のものにおいても、厳密には、二重樋状案内部材に極圧Rが一切伝えられないのではなく、かすがい状支持部材を通じて伝えられる極圧Rの一部から、かすがい状支持部材の底部に水平ビームから働く極圧Qを差し引いた分だけの力は、二重樋状案内部材に働いている。)旨主張する。
しかし、前記のとおり、<1>「発明が解決しようとする課題」の項の記載に鑑みれば、解決すべき課題を有する従来技術のアウトリガとしては、水平ビームからの強大な曲げモーメントを、水平基筒の肉厚を増すなどの方法により水平基筒で支承してから、ブラケットを通じて車体フレームに伝達する構造のものが念頭に置かれていたものであることが明らかであること、<2>二重樋状案内部材と筒状アームとの結合関係に関する唯一の記載である「実施例」において、明確に、二重樋状案内部材にはアウトリガ使用時の強度保持機能を持たせない、単に水平ビームの案内機能や水平ビーム伸縮時における支持部材の揺れ止め機能等を持たせるだけの軽量な構成が記載されていることからすれば、本件発明の構成Aの二重樋状案内部材は、その上の筒状アームと一体に固着結合される結果強度保持機能を有するような構成のものを含まないものと解すべきである。
原告は、本件発明の実施例のものにおいても、厳密には、極圧Rの一部が二重樋状案内部材に働く旨主張するが、そのようなことを前提としても、前記の解釈を左右しない。
(二) 原告は、無効審判請求事件の再答弁書の記載について、水平ビームの頂壁からの極圧Rを外開き切欠を有する筒状アームの底板端部で直接受け、この水平ビームの頂壁と、外開き切欠を有する筒状アームの底板の間に案内部材が介在しないという当然のことを述べたにすぎず、従来例のアウトリガが水平基筒だけで極圧Rを支えていたのに対し、本件発明が筒状アームで極圧を支えていることから、その分、二重樋状案内部材の肉厚を従来の水平基筒の肉厚より薄くすることができるということを述べているにすぎないのであって、筒状アーム以外の部材に極圧Rが一切伝達されない趣旨ではない旨主張する。
しかし、前記のとおり、再答弁書中の各記載に鑑みれば、本件発明における「二重樋状案内部材」は、アウトリガを従来例より軽量に構成可能にする等の効果を奏させるため、従来例の水平基筒の頂板対応部を欠除するものであって、その頂部では極圧Rを受承せず、水平ビーム頂壁からの極圧Rは、二重樋状案内部材を介することなく車体フレームへ伝達されるものであることを、本件特許権についての無効審判において、原告は、明確に述べているものというべきである。したがって、右記載が、水平ビームの頂壁と、外開き切欠を有する筒状アームの底板の間に案内部材が介在しないという当然のことを述べたにすぎないとする原告の主張は採用できない。
5 以上のとおりの本件発明の構成Aについての解釈を前提として、これと被 告製品の構成Aとを対比する。
被告製品の構成Aは、「車体フレーム2下側の横方向に設けた、その対向する一方の端縁が車体幅一杯に延びかつその断面が長方形を有する『補強部材10を有する底板3b、補強部材9を有する側板3c、3c、水平板3aよりなり、水平板3aの上面が該車体フレーム2の下面に溶接固着された』二重筒状部材3を有し、」というものであり、水平板3aの下面は、「案内路に伸縮可能に挿入され、断面が長方形をなす水平ビーム6頂壁の受面として構成され」るものである。
以上の構成によれば、被告製品においては、水平ビームからの極圧Rは、まず一度すべて二重筒状部材の一部を構成する水平板に伝えられてから、さらに、車体フレームに伝えられることが明らかである。したがって、被告製品の構成Aにおける二重筒状部材は、水平ビームの案内機能や水平ビーム伸縮時における支持部材の揺れ止め機能等を持つだけではなく、極圧Rを支承する強度保持機能を有するものである。
したがって、本件発明の構成Aに、二重樋状案内部材が筒状アームと一体に結合される結果強度保持機能を有するような構成のものが含まれないことは、前記のとおりであるから、被告製品の構成Aは本件発明の構成Aを充足しない。
二 以上のとおり、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件請求は、理由がない。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 沖中康人)
<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告
<12>特許公報(B2) 平2-12781
<51>Int. Cl.5B 60 S 9/12 B 66 C 23/78 識別記号 C 庁内整理番号 6637-3D 8408-3F <24><44>公告 平成2年(1990)3月27日
発明の数 1
<54>発明の名称 トラツククレーンにおけるアウトリガ
<21>特願 昭63-225259 <65>公開 平1-195162
<22>出願 昭52(1977)9月7日 <43>平1(1989)8月7日
<62>特願 昭55-62781の分割
<72>発明者 山本克宏 埼玉県大宮市日進町2の70の1
<71>出願人 株式会社加藤製作所 東京都品川区東大井1丁目9番37号
<74>代理人 弁理士 御園生芳行
審査官 田中英穂
<57>特許請求の範囲
1 車体フレーム下側の横方向に設けた二重樋状案内部材の両案内路の互いに対向する一端部上側位に、端縁が当該車体巾一杯に延びる筒状アームを配し、該筒状アームの基部を前記車体フレームの側壁部に固着すると共に、前記筒状アームの底板下面が、前記両案内路に伸縮可能に挿入され、断面が長方形状をなす水平ビーム頂壁の受面として構成され、かつ、前記筒状アームの底板端部に、前記水平ビーム端部に突設された伸縮支脚上部の遊嵌可能な外開き切欠を形成すると共に、該外開き切欠まわりの側板下部に、前記水平ビーム頂壁の受面を有する補強片を一体状に設けたことを特徴とするトラツククレーンにおけるアウトリガ。
2 前記底板端部の外開き切欠まわりの側板下部に、一体状に設けた補強片の下縁が下方に延長され、前記水平ビームの頂壁側面のガイド片を構成したことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のトラツククレーンにおけるアウトリガ。
3 前記筒状アームの底板端部の外開き切欠より内側位に、該筒状アームの底板、頂板、側板を連結する隔壁板を溶着したことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のトラツククレーンにおけるアウトリガ。
発明の詳細な説明
(産業上の利用分野)
この発明は、トラツククレーンにおけるアウトリガに関するものである。
(従来の技術)
従来のトラツククレーン等の特殊車両におけるアウトリガとしては、例えば、第9図ないし第12図に示すようなものがある(類似構造のものについては、実公昭50-39538号公報参照)。
このものは、トラツククレーンKの車体フレーム1の狭小部1Aの下側に、中央壁31Aを共通にする一対の水平基筒31、31を配し、該水平基筒31、31の左右両側上部に固定した吊金具32A、32Aを有する箱状ブラケツト32、32を、車体フレーム1の狭小部1Aに溶着したブブラケツト33、33にピン34、34着すると共に、前記水平基筒31、31に、端部に伸縮支脚4、4を有し、互いに逆方向に伸縮する一対の水平ビーム30、30を設けたものである。
このトラツククレーンKを目的とする荷役作業場所に移動させた後、水平ビーム30、30を伸長させると共に、伸縮支脚4、4を伸長させてトラツククレーン1を地面Gに支承し、伸縮ブーム28を伸縮させると共にその起伏角θを調整し、かつ、クレーン基台29をその中心Oまわりに回動させ、図示しないウインチによりローブ28Aを巻き上げ、下げして荷役作業をするもので、水平ビーム30、30の先端に加わるアウトリガ負荷P(第11図ではその反力を示す)により、水平ビーム30、30に曲げモーメントが発生し、水平ビーム30、30と水平基筒31、31との重なり部分(長さD)の両端付近に極圧Q、Rが発生し、これが箱状ブラケツト32、32、ピン34、34、ブラケツト33、33を介して車体フレーム1に伝達される。
そして、この水平ビーム30の長さをMとすれば、前記各極圧Q、Rの作用個所におけるモーメントの釣合により、
PM=RD
P(M-D)=QD
∴R=P+Q
となり、極圧Rは極圧Qよりアウトリガの反力Pたけ大きくなる。
また、このようなトラツククレーンKにおける荷役作業可能な限界モーメント曲線は、第10図のように伸縮ブーム28が、車体の後(同図右)側に位置する場合35より、車体側方(同図の上下側)に位置する場合38が小さくになり、この横方向限界モーメント38が、当該トラツククレーンの限界モーメントとされるのが通常である。
なお、図中、36は運転室、37はエンジン、Aは水平ビーム30、30の伸長時における伸縮支脚4、4の間隔、Bは車巾、Hは車高である。
また、前記実公昭50-39538号公報には、水平ビーム30、30の端部に伸縮支脚4、4を回動可能に装着したアウトリガについて記載されているが、ここでは省略した。
また、トラツククレーンの車体端部に取付けられ、連結ピンの嵌合穴を有する互いに平行なアウトリガラグと、該平行なアウトリガラグ間に挿入可能で、連結ピンの嵌合穴を有するジヤツキシリンダ付アウトリガ本体と、車体に支持され、両側に油圧で出没可能な連結ピンを有する油圧シリンダとからなり、油圧シリンダで連結ピンを出没させることにより、車体フレームに対してアウトリガを装脱可能とし、走行時には車体フレームから取外して車巾の増加を防ぐ一方、クレーン作業時には車体フレームに取付け、その限界転倒モーメントを大きくするものの着脱を迅速に行えるもの(実開昭51-38817号公報参照)も知られている。
なお、特殊車両におけるアウトリガの水平ビームを伸長させた状態において、負荷により水平ビームの内端が下降して、水平案内筒の底壁部を下方へ押圧する極圧Qを分散させるため、水平基筒の底壁下部まわりにバンド掛けしたもの(特公昭45-26247号公報参照)、トラツククレーンの水平基筒の底壁下側(この公報には、デイフアレンシヤルギヤケースの両側部位に設けたものが図示されている)から、その前後壁部にかけて帯状補強片を溶着したもの(実開昭50-23810号公報参照)、水平基筒(機体)の中央部底板下側に広巾の補強板を溶着したもの(実公昭45-30483号公報参照)、アウトリガ本体(水平基筒)の底板下位と同底板前後の側壁中央近傍位まで延びるコ字状の補強部材を溶着したもの(実開昭50-67511号公報参照)等も知られている。
(発明が解決しようとする課題)
しかしながら、前記第9図ないし第12図に示すようなの従来のトラツククレーン等の特殊車両におけるアウトリガにあつては、水平ビーム30端部の伸縮支脚4に発生する反力Pを、水平基筒31、箱状ブラケツト32、ブラケツト33を介して車体フレーム1側に伝達する構成のものであり、しかも、車体横方向の限界転倒モーメント38の増大を図るため、張出し時における水平ビーム30と水平基筒31間に発生する強大な曲げモーメントに耐え、それを車体フレーム1側に伝達可能にする必要があり、各部、殊に、水平基筒31全体を肉厚にする必要があり、その結果、アウトリガ全体の重量増を招くことになり、これは近時の道路交通法規による車軸荷重の制限強化に照らし、好ましくないという問題があつた。
もつとも、特殊車両におけるアウトリガを、その水平ビームを伸長させた際、水平ビームの内端部により下方へ押圧されて水平基筒の底壁部に発生する極圧を分散させるため、バンド又はコ字状金具等の補強手段を、伸長時の水平ビーム内端の当接する水平基筒底壁の外側に構じたものは、例えば、前記特公昭45-26247号公報、実公昭45-30483号公報、実開昭50-23810号公報、実開昭50-67511号公報等に一応示されてはいるものの、これらの従来例の何れにも、水平基筒の端部側に補強手段を構ずることについては何等の配慮がなされておらず、まして、この水平基筒の端部に対応する前記第9図ないし第12図に示した筒状ブラケツト32の端部側に発生することになる極圧R対策は構じられていないという問題があつた。
すなわち、前記第9図ないし第12図に示したものを含め、従来の特殊車両におけるアウトリガにあつては、水平ビーム30を支承する水平基筒31全体の肉厚を増すか、又は、水平ビーム30を伸長させた状態において、その内端の当接部近傍の底板外側部まわりにバンド又はコ字状金具等の補強片を配することにより、水平基筒30の中央部の曲げ剛性等を如何に増加させるかの対策が構じられていたに留まり、水平基筒30の端部や、これに対応する筒状ブラケツト32の端部に切欠きを設ける等、同部の強度低下に結び付くことになるような示唆は全く見られず、その結果として、アウトリガの重量増を招き、ひいては、トラツククレーン等の荷役能力の低下を招くという問題があつた。
また、水平基筒31内に水平ビーム30を格納させて、水平ビーム30端部に設けた伸縮支脚4を車巾B内に納めようとすると、水平基筒31の長さEが、車巾Bから少なくとも伸縮支脚4の外径dの2倍を引いた長さとなる(第10図のアウトリガでは、車体フレーム1の両側に凹部を形成した狭小部1Aに、水平ビーム30端部の伸縮支脚4が収納される)ため、これに応じて水平ビーム30、30の最大伸長量が減小し、その伸長時における両側伸縮支脚4、4の最大間隔Aが、例えば、前記実開昭51-38817号公報に記載されたアウトリガを着脱可能にすることにより、水平基筒31の長さを車巾Bにしたものより減小することになり、ひいては、トラツククレーンKの限界転倒モーメントが相対的に減小し、荷役作業時、殊に、伸縮ビーム28の起伏角θの小さい範囲におけるトラツククレーンKの支承安定性が低下するという問題があつた。
この発明は、このような従来例に鑑み、特殊車両のアウトリガの水平ビームを支承する二重樋状案内筒の端部に、前記水平ビームの頂壁に当接する受面を備える底板を有する筒状アームを設けると共に、該筒状アームの底板端部に、前記水平ビームの収縮時に、その端部に設けた伸縮支脚の上部が遊嵌する外開き切欠を設け、かつ、該外開き切欠まわりの側板下部に、前記側板下部に前記水平ビーム頂壁の受面を有する補強片を一体状に設けることにより、アウトリガを車体フレームから取外すような煩わしさを伴なうことなく、前記のような課題を解決できるトラツククレーンにおけるアウトリガを提供しようとするものである。
(課題を解決するための手段)
この発明は、前記のような従来例の課題を解決するため、車体フレーム下側の横方向に設けた二重樋状案内部材の両案内路の互いに対向する一端部上側位に、端縁が当該車体巾一杯に延びる筒状アームを配し、該筒状アームの基部を前記車体フレームの側壁部に固着すると共に、前記筒状アームの底板下面が、前記両案内路に伸縮可能に挿入され、断面が長方形状をなす水平ビーム頂壁の受面として構成され、かつ、前記筒状アームの底板端部に、前記水平ビーム端部に突設された伸縮支脚上部の遊嵌可能な外開き切欠を形成すると共に、該外開き切欠まわりの側板下部に、前記水平ビーム頂壁の受面を有する補強片を一体状に設けたものであり、また、前記底板端部の外開き切欠まわりの側板下部に、一体状に設けた補強片の下縁が下方に延長され、前記水平ビームの頂壁側面のガイド片を構成したものであり、さらに、前記筒状アームの底板端部の外開き切欠より内側位に、該筒状アームの底板、頂板、側板を連結する隔壁板を溶着したものである。
(作用)
この発明は、前記のような構成を有するから、車体フレームの下部横方向に設けた二重樋状案内部材の案内路に挿入した水平ビームを、互いに反対方向に伸長させた後、水平ビーム端部の伸縮支脚を伸長させ、車体を地上に支承してクレーンによる荷役作業をし、また、伸縮支脚を収縮させた後、水平ビームを収縮させる等、従来のトラツククレーンにおけるアウトリガと同様な作用をする外、水平ビームの収縮時に、水平ビームの端部に設けた伸縮支脚が、車体フレームの側壁部に溶着され、車体巾一杯に延びる筒状アームの底板端部に形成された外開き切欠内に嵌入して車巾内に格納され、しかも、筒状アームの底板端部の外開き切欠まわりの側板下部に、一体状に設けられた前記水平ビーム頂壁の案内面付補強板により、筒状アーム端部の曲げ剛性が確保され、水平ビーム伸長時の負荷による案内アーム端部の下向極圧が、車巾一杯に延びる側板下部の補強板により支承される。
また、前記外開き切欠まわりの側板下部に、一体状に形成され、水平ビームの頂面の受面付補強片の下部から下方に延び、同部の曲剛性を増大するガイド片により、前記水平ビームの頂壁側部がガイドされ、横ぶれなく伸縮する。
(実施例)
以下、この発明に係るトラツククレーンにおけるアトリガの実施例を、第1図ないし第8図を参照して説明する。なお、第9図ないし第12図に示した従来例と共通する部分には、同一名称及び同一符号を用いる。
第1図ないし第8図において、1は大型トラツククレーンの車体フレームで、該車体フレーム1の前後は、それぞれ適宜の車輪懸架装置を介して車輪2で地面G上に支承される。3は長方形断面の筒状水平ビームで、その先端には油圧により伸縮する伸縮支脚としての油圧シリンダ4が固着され、該油圧シリンダ4のシリンダロツド5の下端に接地板6が着脱自在に装着される。この水平ビーム3は2個一組が互いに逆向きに、車体フレーム1下側に、後述の二重樋状部材23により、横方向に摺動自在に支承される。
7、7は筒状アームで、該筒状アーム7、7は、その基部が車体フレーム1の左右(第2図)両側壁部にそれぞれ溶着され、その端部が車体の横巾一杯に突出する。両筒状アーム7、7は共に、頂板8、底板9、側板10、11を互いに溶着して筒状に構成され、その長手方向の中間に補強用の隔壁板12が溶着され、これにより筒状アーム7の車体フレーム1へ溶着される基部側が、曲げ剛性の高い箱状に構成される。13は前記隔壁板12位より先端側の底板9に設けた外開き切欠で、該切欠13には、水平ビーム3の頂面より上方へ突出する油圧シリンダ4が遊嵌する。
筒状アーム7の側板10、11は、第5図にのように水平ビーム3の両側壁の直上に位置する。また、筒状アーム7の隔壁板12より先端側の側板10、11の下端には、水平ビーム3の頂面に当接する受面14A、15A付補強片14、15が一体状に設けられ、また、この補強片14、15の下縁外側から、水平ビーム3の頂部側壁のガイド片14B、15Bが下方へ突設される。16は前記側板11の隔壁板12取付部分と頂板8とに溶着したブラケツトで、該ブラケツト16は同時に車体フレーム1に溶着される。17はアーム7の先端に突設され、隣接する水平ビーム3の伸縮反力を受け止める支持梁である。
前記水平底板9の基部は車体フレーム1の下面に溶着される。この底板9と協働して水平ビーム3を摺動自在に支持するかすがい状支持部材18の上部開放端が、筒状アーム7基部の側板10、11にピン19により止着される。20は前記ピン19を囲んで両側板10、11間を補強連結する套管である。
各かすがい状支持部材18、18は、第6図ないし第8図のように、水平ビーム3の支持用底辺部分18a、18aの両端にそれぞれ水平案内用の竪杆部分18b、18bを直立固定してなり、両側竪杆部分18b、18bの水平ビーム3張出部分側にそれぞれブラケツト21、21を突出固着し、該ブラケツト21、21の先端に案内ローラ22、22が軸着される。23は車体フレーム1の両側のかすがい状支持部材18、18に支持させた水平ビーム3の、少くと共、底部を案内する案内路23D、23Dを構成する二重樋状案内部材で、該二重樋状案内部材23により両端のかすがい状支持部材18、18が剛に連結される。23a、23bは二重樋状案内部材23の底板及び側壁で、中央の側壁23bは共通のものとして構成される。
なお、この実施例では、第3図のように筒状アーム7の頂板8が、かすがい状支持部材18、18基部の取付部分より、その先端に至るに従つて順次下降するように構成されているから、同アーム7の曲げ剛性は隔壁板12の所まで次第に小さくなり、該隔壁板12より先はアーム7先端の方への曲げ剛性の減小に対して、補強片14、15による剛性増加分だけ曲げ剛性が加算されるが、切欠13部からは同曲げ剛性が、同切欠き13に相応する量、先端に至るに従つて次第に減小する。即ち、この筒状アーム7の曲げ剛性は、切欠13凹設部分とそれに続く箱状基部側との間に曲げ剛性の急増する部分が設けられているから、最も大きな曲げ剛性を受ける筒状アーム7の底板9端部の外開き切欠13凹設部分に発生する応力が、この曲げ剛性増加部分により分散して円滑に車体フレーム1へ伝達され、また、筒状アーム7の先端とかすがい状支持部材18の取付部分に作用する互いに逆方向の力を該筒状アーム7内で相殺し得る。
各かすがい状支持部材18、18は、第6ないし第8図に示すように、水平ビーム3案内用の両側竪杆部分の水平ビーム張出側にそれぞれブラケツト21を溶着突出させ、該ブラケツト21の先端にはそれぞれ水平ビーム3の底面支持する案内ローラ22、が枢支され、車体フレーム1両側のかすがい状支持部材18、18間には、少なくと共水平ビーム3の底部を案内する二重樋状案内部材23の両端を溶着して互いに連結される。
二重樋状案内部材23は肉薄の板で断面が長方形状をなす軽重量のものとして構成され、単に水平ビーム3の引込み、張出し時における支持部材18、18の振れ止め及び摺動案内と、トラツククレーンKの路上走行時における水平ビーム3の振れ止めをする。
各水平ビーム3、3の先端内部と、該水平ビーム3、3を支持する筒状アーム7と反対側の筒状アーム7から突出する片持梁17の端部に固着したブラケツト24との間に、複動型油圧シリンダ25の両端がそれぞれ枢着26、27され、水平ビーム3を第3図の格納状態と第4図の張出状態との間で摺動し得るようにし、水平ビーム3の張出完了時のストツバは、油圧シリンダ25内又は水平ビーム3と支持部材18間に設ける。
次に、この実施例の作用を説明する。
まず、トラツククレーンKを路上走行させる場合には、第3図のように下部から接地板6を取外し、シリンダロツド5を油圧シリンダ4内に収縮させた後、先端の油圧シリンダ4が筒状アーム7底板9端部の外開き切欠13内に嵌入するまで、油圧シリンダ25を縮小させて水平ビーム3引込ませ、水平ビーム3をトラツククレーンKの車巾B内に格納する。
トラツククレーンにより荷役作業をする場合には、油圧シリンダ25を伸長させて水平ビーム3、3を張出した後、シリンダロツド5の下部に接地板6を取付け、油圧シリンダ4によるシリンダロツド5の伸長により接地させて、このアウトリガにより車体フレーム1を地上Gに支承した後、通常のクレーン作業をする。
伸長した水平ビーム3、3端部の伸縮支脚4、4に反力Pを発生するクレーン作業時の負荷により、車体フレーム1の側壁1B、1Bに基部を溶着された筒状アーム7端部に発生する極圧Rは、同端部及びその側板10、11下部に一体状に溶着された補強片14、15の受面14A、15Aを介して筒状アーム7、7の箱状基部側に伝達され、さらに車体フレーム1へ伝達される。
なお、本件発明者の調査によれば、このアウトリガの使用時に、二重樋状案内部材23の中央隔壁板23bに発生する応力は極めてちいさいから、この二重樋状案内部材23にはアウトリガの使用時における強度保持機能を持たせる必要はなく、単に水平ビーム3の案内機能や水平ビーム3伸縮時における支持部材18の振れ止め機能等を持たせたせるだけの軽量に構成でき、この実施例のものでは、従来例のように、水平ビームに係る荷重を、一旦水平ビームの支持基筒(二重樋状案内部材)により受止めた後、これを更に車体フレームに伝達するものに比し、トラツククレーン等の重量をかなり(5%程度)軽減でき、しかも、伸縮支脚4、5を含めた水平ビーム3、3の長さを、車体横巾一杯にすることができる。
その上、張出し時の水平ビーム3と筒状アーム7及びかすがい状支持部材18との重なり部分の長さDは筒状アーム7の強度増大により短く構成し得るから、水平ビーム3を多段テレスコーブ型にした従来例、(例えば、特開昭51-4729号公報参照)に比べて、水平ビーム3、3の伸長時におけるその支承部との重なり部分の長さが短かくなり、しかもその構造が簡易化するから、所要の張出量を有するアウトリガを、その重量増を招く恐れなく提供できる。
(発明の効果)
この発明は、前記のような構成を有し、作用をするから、次のような効果が得られる。
(1) 底板端部に外開き切欠を有し、端部が車巾一杯に延びる筒状アームの基部を車体フレーム側部に設けたから、端部に伸縮支脚付水平ビームを車巾内に格納できる。
(2) 筒状アーム端部の側板下部に、水平ビーム頂部の受面付補強片を一体状に設けたから、筒状アームの底板端部に外開き切欠を設けたにもかかわらず、筒状アーム端部の充分な曲げ剛性を確保できる。
(3) アウトリガの最小縮小巾の増大を招くことなく、筒状アーム端部の曲げ剛性を確保できるから、水平ビームの伸長時における伸縮支脚の最大スバンを従来例より増大でき、トラツククレーンの限界転倒モーメントを増大し、安全荷役作業領域が増大する。
なお、筒状アームの底板端部の外開き切欠まわりの側板下部に一体状に設けた受面付補強片の外側下縁に下方へ延びるガイド片を形成すれば、このガイド片による水平ビームの伸縮時における横ぶれが防止できる外、このガイド片の延設により筒状アーム端部の曲げ剛性が一層増大する。
また、筒状アームの底板端部の外開き切欠より内側位に、筒状アームの底板、頂板、側板内側に溶着される補強用隔壁板を設ければ、基部を車体フレームに溶着したことと併せて、筒状アームの基部側が箱状となり、その曲げ剛性が増大する。
なお、筒状アームの基部を補強用隔壁板の溶着により、また、端部をその側板下部の補強片の溶着によりそれぞれ補強したから、底板端部に外開き切欠を設けたにもかかわらず、筒状アーム全体の曲げ剛性が増大し、同一曲げ剛性の筒状アームを従来例により薄肉に構成でき、アウトリガを軽量に構成できる。
また、筒状アームを水平ビームの頂壁上側に位置させると共に、その底板端部に外開き切欠を設け、かつ、同底板又はその側板下部を水平ビーム頂部の受面ないしガイドとする外は、筒状アームの外形を、水平ビームの断面形状の制約を受けることなく構成できるから、その設計自由度が向上する。
図面の簡単な説明
図面はこの発明に係るトラツククレーンにおけるアウトリガの一実施例を示すもので、第1図はその要部を一部を切除して示す平面図(第3図のY-Y断面図)、第2図はその平面図、第3図はアウトリガ格納時の縦断正面図(第2図のX-X線図)、第4図はそのアウトリガの張出時の縦断面図、第5図は第4図のZ-Z断面図、第6図及び第7図はその水平ビーム支持部材の正面図及び平面図、第8図は第6図のW-W断面図、第9図及び第10図は従来のトラツククレーンハ側面図及び平面図、第11図はそのアウトリガの正面図、第12図は第11図のU-U断面図である。
1……車体フレーム、1B……側壁、3……水平ビーム、4、5……伸縮支脚、7……筒状アーム、9……底板、12……隔壁板、13……切欠、14、15……補強片、14A、15A……受面、14B、15B……ガイド片、23……二重樋状案内部材、23D……案内路。
第1図
<省略>
1……車体フレーム
1B……側壁
3……水平ビーム
4……油圧シリンダ(伸縮支脚)
7……筒状アーム
9……底板
12……隔壁板
13……切欠
14、15……補強片
23……二重樋状案内部材
第2図
<省略>
第3図
<省略>
第4図
<省略>
第5図
<省略>
1……車体フレーム
1B……側壁
3……水平ビーム
4……油圧シリンダ(伸縮支脚)
7……筒状アーム
9……底板
12……隔壁板
13……切欠
14、15……補強片
14A、15A……受面
14B、15B……ガイド片
23……二重樋状案内部材
第6図
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第7図
<省略>
第8図
<省略>
23……二重樋状案内部材
23D……案内路
第10図
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第9図
<省略>
1……車体フレーム
1B……側壁
3……水平ビーム
4……油圧シリンダ(伸縮支脚)
第11図
<省略>
第12図
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1……車体フレーム
1B……側壁
4……油圧シリンダ(伸縮支脚)
第2部門(5) 特許法第64条の規定による補正の掲載 平4.8.27発行
昭和63年特許願第225259号(特公平2-12781号、平2.3.27発行の特許公報2(5)-11〔406〕号掲載)については特許法第64条の規定による補正があつたので下記のとおり掲載する。
特許第1665937号
Int. Cl.5B 60 S 9/12 B 66 C 23/78 識別記号 庁内整理番号 8510-3D 7309-3F
記
1 第2欄21行「クレーン」を「クレーンK」と補正する。
2 第3欄19行「小さくに」を「小さく」と補正する。
3 第5欄31行「伸縮ビーム」を「伸縮ブーム」と補正する。
4 第5欄36行「案内筒」を「案内部材」と補正する。
5 第6欄39行、第6欄42行「補強板」を「補強片」と補正する。
6 第6欄41行「案内アーム」を「筒状アーム」と補正する。
7 第7欄34行「第5図にの」を「第5図に示す」と補正する。
8 第11欄21行「従来例により」を「従来例より」と補正する。
9 第12欄16行「クレーンハ」を「クレーンの」と補正する。
物件目録(一)
一、 右の「構造の説明」及び「図面」の構造のアウトリガを有する「RK二五〇-Ⅱ」、「RK四五〇」と称するラフテレーンクレーン
1. 構造の説明
A. 車体フレーム2下側の横方向に設けた、その対向する一方の端縁が車体幅一杯に延びかつその断面が長方形を有する「補強部材10を有する底板3b、補強部材9を有する側板3c、3c、 水平板3aよりなり、水平板3aの上面が該車体フレーム2の下面に溶接固着された」二重筒状部材3を有し、
B1. 外側端縁が当該車体巾一杯に延び、その端縁から車体フレーム2の側壁部までの長さの約半分を占め、U字状の外開き切欠8aが形成された外側に向って下方に傾斜した上板4aと、該上板4aの両側下端に溶接固着された側板4c(2)、4c(2)と、該上板4aの基部側端縁と該側板4c(2)、4c(2)の基部側端縁とに溶接固着された縦板4dを有し、該縦板4dの下端縁が前記二重筒状部材3の水平板3aに溶接固着され、前記側板4c(2)、4c(2)の下端縁が前記二重筒状部材3の水平板3aの側縁部並びに、側板3c、3c、及び側板補強部材9、9のそれぞれの上端部に、側板4c(2)の板厚とほぼ同程度の肉厚で肉盛溶接された、外側構造体4を設け、
B2. 該外側構造体4の縦板4dの約上半分に上板5a(1)と側板5c(1)、5c(1)からなる断面が倒状コ字状の基部側構造体5の外側端縁を、その上板5a(1)と側板5c(1)、5c(1)とがそれぞれ前記外側構造体4の上板4aと側板4c(2)、4c(2)の略同一平面上に配置するようにして外側構造体4と溶接固着し、該基部側構造体5の基部側端縁を車体フレーム2の側壁部の約上半分に溶接固着すると共に、
C. 前記二重筒状部材3の水平板3aの下面が、その案内路に伸縮可能に挿入され、断面が長方形をなす水平ビーム6頂壁の受面として構成され、
D. かつ、前記水平板3a、及び底板3bの各端部に、水平ビーム6の端部に突設された伸縮支脚7の遊嵌可能なU字状の外開き切欠8b、8cをそれぞれ形成するとともに、
E. 前記外側構造体4の側板4c(2)、4c(2)の内側に、若干間隔を置いて該側板4c(2)、4c(2)と同様の側面形状を有する補強側板4c(3)、4c(3)を前記側板4c(2)、4c(2)と平行に配置させて、該外側構造体4の上板4aの内側下端部に補強側板4c(3)、4c(3)の上端縁を溶接固着し、水平板3aの外開き切欠8b周りの上面に、該補強側板4c(3)、4c(3)の下端部とその内側の補強小板11、11の下端縁を、該補強小板の板厚とほぼ同程度の肉厚で肉盛溶接し、
F. 前記二重筒状部材3の外側両端部に襟状補強部材12、12を配置させて、それぞれ水平板3a、側板3c、3c、及び前記外側構造体4の上板4a、側板4c(2)、4c(2)補強側板4c(3)、4c(3)の外側端縁に溶接固着した、
G. ラフテレーンクレーンにおけるアウトリガ。
2. 図面の説明(左の図面にはRK二五〇-Ⅱの表示をしているが、他の機種の図面も同一である。)
第1図 本件ラフテレーンクレーン全体図
第2図 本件アウトリガの正面図(水平ビームを伸ばしたもの)
第3図 本件アウトリガの正面図(水平ビームを縮めたもの)
第4図 本件アウトリガの正面図(水平ビームを取り除いたもの)
第5図 第4図のB-B断面図
第6図 第4図のA-A断面図
第7図 第4図のD-D断面図
第8図 第4図のC方向から外側構造体をみた図
第9図 第4図のE-E断面図
第9図-H図 第4図のH-H断面図
第10図 第4図のF方向から見た図
第11図 第4図のG方向から見た図
第12図 車体前方に取り付けられたアウトリガを左前斜上方から見た図
第13図 車体前方に取り付けられたアウトリガを右後斜下方から見た図
3. 図面番号の説明
1 アウトリガ 6 水平ビーム
2 車体フレーム 7 伸縮支脚
3 二重筒状部材 8a 外開き切欠
3a 水平板 8b 外開き切欠
3b 底板 8c 外開き切欠
3c 側板 9 側板補強部材
4 外側構造体 10 底板補強部材
4a 上板 11 補強小板
4c(2)側板 12 襟状補強部材
4c(3)補強側板
4d 縦板
5 基部側構造体
5a(1)上板
5c(1)側板
第1図
<省略>
第2図
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第3図
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第4図
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第5図
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第6図
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第7図
<省略>
第8図
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第9-H図
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第10図
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第11図
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第12図(車体前方に取付られたアウトリガを左前斜上方より見る)
<省略>
第13図(車体前方に取付られたアウトリガを右後斜下方より見る)
<省略>
物件目録(二)
一、右の「構造の説明」及び「図面」の構造のアウトリガを有する「RK二五〇-三(PANTHER二五〇)」、「RK三五〇(PANTHER三五〇)」及び「RK四五〇-二(PANTHER五〇〇)」と称するラフテレーンクレーン
1. 構造の説明
A. 車体フレーム2下側の横方向に設けた、その対向する一方の端縁が車体幅一杯に延びかつその断面が長方形を有する「補強部材10を有する底板3b、補強部材9を有する側板3c、3c、長さ方向に一体に溶接された厚板水平板3a(1)、及び水平板3a(2)よりなり、水平板3a(2)の上面が該車体フレーム2の下面に溶接固着された」二重筒状部材3を有し、
B1. 外側端縁が当該車体巾一杯に延び、その端縁から車体フレーム2の側壁部までの長さの約半分を占め、U字状の外開き切欠8aが形成された外側に向って下方に傾斜した上板4aと、該上板4aの両側下端に溶接固着された側板4c(2)、4c(2)と、該上板4aの基部側端縁と該側板4c(2)、4c(2)の基部側端縁とに溶接固着された縦板4dを有し、該縦板4dの下端縁が前記二重筒状部材3の厚板水平板3a(1)に溶接固着され、前記側板4c(2)、4c(2)の下端縁が前記二重筒状部材3の厚板水平板3a(1)の側縁部並びに、側板3c、3c、及び側板補強部材9、9のそれぞれの上端部に、側板4c(2)の板厚とほぼ同程度の肉厚で肉盛溶接された、外側構造体4を設け、
B2. 該外側構造体4の縦板4dの約上半分に上板5a(1)と側板5c(1)、5c(1)からなる断面が倒状コ字状の基部側構造体5の外側端縁を、その上板5a(1)と側板5c(1)、5c(1)とがそれぞれ前記外側構造体4の上板4aと側板4c(2)、4c(2)の略同一平面上に配置するようにして外側構造体4と溶接固着し、該基部側構造体5の基部側端縁を車体フレーム2の側壁部の約上半分に溶接固着すると共に、
C. 前記二重筒状部材3の厚板水平板3a(1)と水平板3a(2)の下面が、その案内路に伸縮可能に挿入され、断面が長方形をなす水平ビーム6頂壁の受面として構成され、
D. かつ、前記厚板水平板3a(1)、及び底板3bの各端部に、水平ビーム6の端部に突設された伸縮支脚7の遊嵌可能なU字状の外開き切欠8b、8cをそれぞれ形成するとともに、
E. 前記外側構造体4の側板4c(2)、4c(2)の内側に、若干間隔を置いて該側板4c(2)、4c(2)と同様の側面形状を有する補強側板4c(3)、4c(3)を前記側板4c(2)、4c(2)と平行に配置させて、該外側構造体4の上板4aの内側下端部に補強側板4c(3)、4c(3)の上端縁を溶接固着し、厚板水平板3a(1)の外開き切欠8b周りの上面に、該補強側板4c(3)、4c(3)の下端部とその内側の補強小板11、11の下端縁を、該補強小板の板厚とほぼ同程度の肉厚で肉盛溶接し、
F. 前記二重筒状部材3の外側両端部に襟状補強部材12、12を配置させて、それぞれ厚板水平板3a(1)、側板3c、3c、及び前記外側構造体4の上板4a、側板4c(2)、4c(2)補強側板4c(3)、4c(3)の外側端縁に溶接固着した、
G. ラフテレーンクレーンにおけるアウトリガ。
2. 図面の説明(左の図面にはRK二五〇-三(PANTHER二五〇)の表示をしているが、他の機種の図面も同一である。)
第1図 本件ラフテレーンクレーン全体図
第2図 本件アウトリガの正面図(水平ビームを伸ばしたもの)
第3図 本件アウトリガの正面図(水平ビームを縮めたもの)
第4図 本件アウトリガの正面図(水平ビームを取り除いたもの)
第5図 第4図のB-B断面図
第6図 第4図のA-A断面図
第7図 第4図のD-D断面図
第8図 第4図のC方向から外側構造体をみた図
第9図 第4図のE-E断面図
第9図-H図 第4図のH-H断面図
第10図 第4図のF方向から見た図
第11図 第4図のG方向から見た図
第12図 車体前方に取り付けられたアウトリガを左前斜上方から見た図
第13図 車体前方に取り付けられたアウトリガを右後斜下方から見た図
3. 図面番号の説明
1 アウトリガ 5 基部側構造体
2 車体フレーム 5a(1)上板
3 二重筒状部材 5c(1)側板
3a(1)厚板水平板 6 水平ビーム
3a(2)水平板 7 伸縮支脚
3b 底板 8a 外開き切欠
3c 側板 8b 外開き切欠
4 外側構造体 8c 外開き切欠
4a 上板 9 側板補強部材
4c(2)側板 10 底板補強部材
4c(3)補強側板 補強小板
4d 縦板 12 襟状補強部材
第1図
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第2図
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第3図
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第4図
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第5図
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第6図
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第7図
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第8図
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第9図(第4図のE-E断面図)
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第9図-H図
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第10図
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第11図
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第12図(車体前方に取付られたアウトリガを左前斜上方より見る)
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第13図(車体前方に取付られたアウトリガを右後斜下方より見る)
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特許公報
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